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とらいあんぐるふぁみりー-9
「雛汰は本当に天使みたいだね」
愛しい我が子に頬擦りして紅史郎は幸せの絶頂を噛み締める。
「ぼく、つばさ、ないよ?」
「もしも勝手に飛んでいなくなったら、お父さん、ものすごく悲しいよ」
「だから、ぼく、飛べないよ?」
周囲の同年代のこどもと比べると大人しく、でもご近所さんや親族にきちんと挨拶ができる三歳になった雛汰。
それはそれはそれはそれは可愛らしくて。
「ぼく、おとぉさんのこと、かなしませたりしないよ?」
雛汰といっしょに過ごす時間は紅史郎にとって至福の時だった。
知人と会社を立ち上げて日々バタバタで朝から晩まで忙殺されている男にとってかけがえのないひと時だった。
だがしかーし。
「「おぎゃーーーーーーーーー!!」」
ストライプシャツにネクタイ、チョッキを纏ったままの紅史郎、ありとあらゆる受付嬢を虜にしてきた男前なる顔立ちに濃く滲む疲労。
その両腕には二つのおくるみが。
「怪獣だ……混沌を招くゴジラだ……」
双子赤ちゃんの旭と陽が一向に泣き止まない。
夜中、帰宅したばかりの父親は二人を抱いたまま途方に暮れるようにリビングで立ち尽くすのみ。
「おむつも変えた……ミルクもやった……それなのに泣き止まない……何が不満なんだ……」
家事と子供らのお世話を任せている家政婦は自分と入れ替わりに帰ってしまった。
疲労する余り苛立つパワーもない紅史郎が虚ろにぼんやりしていたら。
「……おとぉさん?」
子供部屋で寝ていたはずの雛汰がやってきた。
「おかえりなさい」
「ああ……ただいま、雛汰」
「「うーーーーーーーーーーー!!」」
雛汰がやってくると旭・陽はちっちゃな手をバタバタさせてお兄ちゃんの方をこぞって見た。
「二人いっしょだとおもいでしょ? ぼく、旭くん、だっこする」
「雛汰には危険だ」
「きけんじゃないよ? だいじょうぶだよ?」
「わかった、じゃあ、噛まれないよう気をつけなさい」
「旭くん、かまないよ? それと、こっちは陽くんだよ?」
双子を見間違えた紅史郎を非難するでもなく雛汰は旭のおくるみを抱っこした。
途端にぱったり泣き止む旭。
雛汰の腕の中でたちまち上機嫌になった。
「ぶーーーー!」
「旭くん、よしよし」
しばし慣れた様子であやしてベビーベッドに横向きに寝かせると、次は紅史郎の腕の中で泣き続けていた陽を抱っこした雛汰。
お兄ちゃんの腕の中で陽もまたすぐ泣き止んで上機嫌に。
「陽くん、よしよし、ほら、旭くんといっしょにねんねしようね」
お口からぶぅぶぅ泡をふいていた旭の隣にそっと陽も寝かせる。
双子はあっという間に夢の中へ。
下ろしていた転落防止の柵をさっと元に戻して紅史郎は寝静まった双子を見下ろした。
「雛汰は怪獣使いだな」
「旭くん陽くん、かいじゅうじゃないよ?」
「雛汰も寝ないと」
「うん。でももうちょっと起きてようかな」
「じゃあアイスココアをいれよう」
本当は眠たかった雛汰だけれども。
父親の話し相手になってあげようと、疲れ果てていた先程までの様子と打って変わって上機嫌でアイスココアを作る紅史郎にぴたっと寄り添ってあげるのだった。
すくすく成長していく雛汰と弟双子。
すくすく会社が大きくなっていく、経営が波に乗った紅史郎。
「旭、陽、お前達に丁度いい小学校を見つけた。イギリスの田舎にある全寮制学校だ。いっそのこと大学まで一貫して学んでこい」
食後、ソファに踏ん反り返った紅史郎にパンフレットをぽいっと寄越された弟双子。
「あのさー、ばっかじゃねーの?」
「ばーかばーか!」
ふかふかマットの上でパズル遊びしていた旭と陽はフフンしている紅史郎を罵る。
罵られた紅史郎はさらにフフンを深める。
「バカ呼ばわり一回につき買い溜めおやつ一つ没収ルール適用、つまり三つ没収」
「「むかつく!!」」
ぎゃーすか言い合っているところへ入浴していた小学校低学年の雛汰が戻ってきた。
一斉に口を閉ざした旭・陽。
お兄ちゃんの両脇にだだっと駆け寄ると上目遣い+うるるん涙目で言うのだ。
「雛ニィ……おれたち遠くに行きたくない」
「外国こわいよー!」
旭から海外留学のパンフレットを手渡された雛汰はびっくりした。
「お父さん、旭くん陽くん、イギリスの学校に行かせるの?」
「二人にとって日本は狭い。海外で固定観念に縛られない伸びやかな教育を受けて広い視野を持ってほしいんだ」
「……ごめんなさい、おれ、反対」
「雛汰」
「旭くん陽くんと離れるの、やだ……みんなとずっといっしょがいいもん」
滅多に我儘を言わない雛汰にそう言われると紅史郎はぐっと詰まってしまう。
パジャマ姿のお兄ちゃん雛汰に両脇からしがみついた旭・陽は、そんな父親の閉口ぶりにニマニマが止まらない。
((ざまみろ))
(あいつらが一番好きなたけのこ〇里、全部食ってやる)
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