44 / 132
とらいあんぐるふぁみりー-11
◆グループメールにて
<紅:お前等わかってんだろうな>
<紅:次の第三日曜、家にいたら>
<旭:┃┃¨╋┓>
<陽:┃┃¨╋┓>
<紅:月の小遣い停止>
<紅:┃┃¨━(・∀・)━ ╋┓>
<旭:(ノ`∀´)ノ ⌒.、●~*>
<陽:|д゚)ノ⌒●~*>
<紅:●~*●~*●~*●~*⌒ ヽ(・∀・ ) >
「おかえりなさい、父さんっ」
会社を経営する代表取締役の紅史郎は職場から近い場所でホテル住まいの身であった。
よって高台に建つ五階建てマンション最上階の自宅に帰る日は限られている。
「ただいま、雛汰」
昼、久し振りに我が家へ帰ってきた父親を笑顔で出迎えたのは長男・雛汰だった。
「父さんが好きなすき焼き丼、用意してるよ」
身長170センチ前後で細身の高校三年生。
手つかずの黒髪で大人しい性格、気立てのいい、紅史郎自慢の息子である。
「毎日お仕事お疲れさま。ちゃんと朝昼夜食べてる? 夜はお酒だけで済ませてない?」
スーツを受け取った雛汰は矢継ぎ早に紅史郎に話しかけてくる。
しつこくない程度に黒髪を撫でつけ、長身の体躯にストライプシャツにネクタイ、チョッキ、鋭気と若さ漲る自信に満ち溢れた父親は。
それはそれはそれはそれは愛してやまない雛汰をいきなり抱き寄せた。
「雛汰。私が見立てた服、とても似合ってるね」
逞しい両腕の中で雛汰はぽぉ……と頬を赤らめた。
タレ兎耳つき、ヒモの先にはファーのポンポンがついたフードパーカー。
ゴムウエストのショートパンツにオーバーニーのレッグウォーマーで絶対領域発生中。
すべてミルキーなオフホワイトに統一された、もこもこルームウェア。
『理想の白兎さんだ、雛汰』
以前、紅史郎に白バニガの格好をさせられた雛汰。
そのために些か価値観が狂ったらしい、わざわざ前日に宅急便で届いていた、明らかに女子向けであるルームウェアを大した抵抗もなく着用して朝から父親のことをワクワク待っていた。
「私だけの兎さんだ」
大好きな父親の言葉に雛汰は照れたように笑う。
我が子の笑顔に腹底を疼かせた紅史郎は細い顎をクイッと持ち上げ、溺愛する唇にキスしようと……。
「雛ニィ、おなかへった」
「雛にぃ、早くごはん食べよっ」
紅史郎はこめかみにピキ……ッと青筋を走らせた。
あれだけ家にいるなと言いつけておいた双子が玄関にドヤ顔で現れて不快感を丸出しにした。
「ん、今日って父の日だっけ、精子提供あざーす」
パツキン頭にレッド系のメッシュが入った、負けず嫌い、勝気そうな双子の上の旭。
「あざーーーーーっす」
ヘアピンでパツキン前髪をとめた、学校でも家でも甘えたな双子の下の陽。
身長170後半、学校でもご近所でも親戚間でも人気の中三イケメン双子。
気に食わない紅史郎に抱きしめられている雛汰を取り戻そうと「おなかへった」を園児みたいに繰り返す。
根っからのお兄ちゃん気質である雛汰は弟双子に笑いかけた。
「うん。みんなで食べよう? 家族揃って家でランチなんて久し振りだね、父さん」
(このパツキンクソガキが、半年間小遣い停止してやる)
(このむっつりクソオヤジ、父の日だからって調子乗んな)
(調子乗ってんじゃねーーー!!)
最初、紅史郎は言いつけを守らなかった弟双子に正直かつてないほどの苛立ちを覚えていた。
今日は愛する雛汰と二人きり、いちゃいちゃ祝ってもらうつもり満々だったのだ。
それをドヤ顔で割り込んできた旭と陽に出鼻を挫かれ、正直、激昂寸前まで腹が立った。
しかしさすが会社経営者、上に立つ者、受付嬢どころか名うての女性起業家まで虜にする紅史郎は。
雛汰が自分のものであることを双子に知らしめるいい機会だと、気持ちを切り替えることにした。
「来なさい、雛汰」
食事を終え、食後のお茶も手早く片づけた雛汰を呼ぶ。
テラスバルコニーから景色が一望できるリビングのソファに座る父親の元へ、もこもこルームウェアをナチュラルに着こなした長男が何の躊躇もなく歩み寄れば。
「「げ!!」」
ダイニングテーブルに着いていた双子はしかめっ面になった。
雛汰を自分の足の間に座らせ、恋人のように後ろ抱きした紅史郎にこめかみピクピクさせた。
「少し痩せたんじゃないのか、雛汰」
「そんなことないと思うけど。体重、変わらないよ?」
なーーんの抵抗もなく父親の両腕に身を任せている雛汰。
「確認してみよう」
正面に回っていた紅史郎の両手が肌触り抜群なパーカーの内側に潜り込んだ。
贅肉に疎いスベスベしたお腹を、ぷに、とつねってみる。
雛汰はくすぐったそうにクスクス笑う。
紅史郎は華奢な肩に顎を乗せて腹ぷにを続ける。
まるで仲睦まじい年の差恋人同士だ。
双子は断然面白くない。
「もう少し肉をつけてもいい、ほら、こんなに簡単に閉じ込められる」
ともだちにシェアしよう!