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裏ヤン表デレチルドレン-2
高等部、中等部、小学部、母方の祖父が理事長を務める同じ私立学園に三兄弟は通っている。
モスグリーンのストライプシャツに深緑のネクタイはサイズ違いのお揃いだ。
「父さん、ケーキ買って帰ろう?」
ブレザーを羽織った藍は身長172センチ、父の背丈を少しばかり追い越している。
「俺、モンブランがいい」
上には何も羽織らずにシャツの第一ボタンを外してネクタイを緩めた蒼は168センチで父より少しばかり低く、短髪で、露になった白い首筋が何だか悩ましげだ。
「パパは何がいいですか?」
セーターを着込んでランドセルを背負った碧は半ズボンを履いていなければ確実に少女に見間違われる。
ケーキを買って、車の行き来が絶えない裏通りをしばし歩き、長い階段を上って高台に広がる住宅街へ。
築十年以上の我が家へ帰ってきた眼鏡一家。
早速、長男の藍がインスタントコーヒーの準備を始めた。
リビングのローテーブルにケーキを並べた次男の蒼。
末っ子の碧は和之が脱いだジャケットをハンガーにかける。
深海宅の夜九時のお茶が始まった。
「はい、父さん」
チーズケーキを掬ったフォークに片手を添えて差し出した藍、ぱくっとする和之。
「お父さんの、ちょーだい」
蒼が欲しがるのでガトーショコラを一口、あーんして食べさせた。
「パパ、食べさせてください」
ショートケーキに乗っかっていた苺を指先に摘まんで掲げてやり、甘えてきた碧は小鳥みたいにちょっとずつ食べていく。
「おいしい?」
「おいしいです」
すべすべした頬についていた生クリームを拭ってやれば碧は甘くなった和之の指先にまでちゅっと吸いついてきた。
「ケーキより、パパの指の方が、甘いです」
「本当に? 僕も味見したい」
「俺も」
末っ子どころか長男次男にまで指を吸われて和之はくすぐったそうに笑った。
「もう……君達はいつになったら甘えたじゃなくなるんですか?」
ソファに座った自分の両隣には藍と蒼が密着し、膝には床に座り込んだ碧がこてっともたれている。
彼女が亡くなって、この子達は前にもまして私に甘えてくるようになった。
藍君は十一歳、蒼君は九歳、碧君は……まだ五歳だった。
天国へ旅立ってしまった母親を私の中に求めているのかもしれない。
私はいつまでそれに応えるべきだろう。
「明日も学校だから。そろそろお風呂に入りなさい?」
「父さん、今日は僕と入ってくれる?」
「俺、しばらくいっしょ入ってない、入りたい」
「藍兄さん、蒼兄さんはもう大きいです。ボクが入るです」
うん。そうだね。いつかこの子達自ら離れていく時が来るだろうから。
その日まで父親としてできる限り支えていこう。
『その日っていつ? 待ちの精神はダメよ、和之さん? 早いとこ精神的に自立させないと奥の奥まで巣食われちゃうわよ?』
……水涼くんはああ言っていたけれど、巣食うって、蜘蛛みたいでちょこっと怖かったんですけど。
……私、甘やかし、なんでしょうか。
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