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おとうさんと(永遠に)いっしょ-4
「宝クン、今、付き合ってる子っていないよね?」
私と付き合ってくれないかな?
前からずっと、いいなぁ、って思ってて。
みんなに優しいトコとか、大人っぽくて、好きなんだ。
ダメかな……?
「ごめん」
同級生に告白された脩はその場で飾らない答えを告げる。
「でもありがとう、僕なんかを好きになってくれて」
「Aクラスの宝君、前よりかっこよくなったと思わない?」
「あ。思う」
「髪がちょっと伸びて、むしろ綺麗になったっていうか」
「最近、誰とも付き合ってないよね。先週もCクラスの女子ふったらしいよ」
「それ、聞いた!」
「え。誰?」
「あいつでしょ、一学期、大学生の彼氏に車で学校まで送ってもらって、生活指導のウザ森に怒られてたバカ!」
「あはは……」
脩は下校途中に近所のスーパーへ寄り、今晩の夕食はどうしようかと考えながら食品コーナーを回った。
一昨日は麻婆豆腐と手羽先の炒め物、昨日は野菜炒めと味噌汁だった。
味噌汁がまだ残っていたから、それと、後は……豚の生姜焼きにしようかな。
付け合わせにカイワレとミニトマトのサラダ、ニンニクもちょっと刻んで生姜と一緒に入れよう。
あ、確かボディソープがもうすぐ切れるから、買っておかなきゃ……。
どんっ
「あら、ごめんなさい」
脩の背後で躓いたらしい、幼稚園の制服を着た小さな女の子が彼にぶつかり、近くにいた母親がすぐに謝ってきた。
片手に買い物籠を持っていた脩は、落ちていた制帽を片手で拾うと、目を丸くしている女の子に被せた。
「大丈夫? 怪我しなくてよかったね」
女の子にそう声をかけ、母親の方へ軽く会釈して、日用品コーナーへと向かった。
午後四時過ぎの空は落ち着いた青に満たされていた。
買い物を済ませた脩は急がない足取りで我が家を目指す。
ランドセルを背負った子供達が楽しげに笑い合いながら、のんびり歩く脩を追い越していった。
張り巡らされた電線越しに穏やかな空を見上げたり、散歩中の飼い犬を目で追ったり、軒先の花壇に咲く花々を眺めたり。
他愛もない日常の見慣れた風景に委ねられていた脩の視線が、ふと、硬さを帯びた。
無意識に足を止める。
無意識に呼吸も止める。
「にゃん、おなかへった?」
脩が立ち止まった場所は他家の車庫前だった。
車はなく空いたスペースの隅に、小さな子供が道路に背中を向け、しゃがみ込んでいる。
子供は腕の中に一匹の猫を抱いていた。
「にゃん、あったかいね」
脩は、束の間忘れていた呼吸を取り戻すと、止めていた足を動かした。
車庫の隅にしゃがみ込む子供の方へと。
「猫、好きなの?」
子供はぶるりと背中を波打たせて、ゆっくりと、肩越しに振り返った。
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