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おとうさんと(永遠に)いっしょ-6

何事もない一日などどこにも存在しない。 「しゅう君」 その夜、子供は自ら眞一と脩の家へとやってきた。 相変わらず眼帯で片目を覆った子供は玄関で佇み、眞一と脩を交互に見、困ったように首を傾げて口をぱくぱく開閉させた。 「どうしたの?」 柔らかな手を引いて家の中へと招き入れ、眞一は、ソファに座らせた子供の目の高さにまでしゃがむと、ゆっくり問いかける。 子供は両手で自分の両膝を掴んだり、服を握り締めたりと、落ち着かない動作を見せていたが、やがて、たどたどしくも話し始めた。 「あのね、これ、ないしょの話」 「うん。誰にも言わない」 「うん。あのね、たっくんにね、らくがきされた」 「らくがき?」 「うん。だれにもみせたらだめだって。でもね、明日、たいいくの時間があるから、たいそうぎにきがえなきゃいけないから」 「そうだね」 「そのとき、せなか、みられちゃうから。どうしようとおもって」 眞一は顔色を変えなかった。 あどけなく首を傾げる仕草を続ける子供の頭を撫でて「せなか、おじさんに見せてくれる? 誰にも言わない」と、人差し指を唇の前に立てた。 子供は素直に頷くと自分のシャツに手をかけた。 「……」 小さな、骨張った背中には、黒の油性マジックで「ばか」「○○死ね」「○○殺す!」という文字が大きく書かれていた。 がたんっ 振り返ると、我が子の姿はすでに居間の中になく、眞一は身を翻してその後を追う。 脩は台所にいた。 その手には身の内にある狂気を象るかのように鈍く光る包丁が握られていた。 「離しなさい、脩」 「どうして?」 「危ない」 「何が危ないの?」 「脩」 「たっくん、殺しにいってもいい?」 澄んだ色硝子は胸の奥で轟く感情を反射して、暗く濁るどころか、ただ、清らかで純粋な光を宿していて。 狂気を狂気と知らず、あるがままの本心にただ忠実に、幼子じみた残酷な衝動を遂行しようとしていて。 眞一は脩の元へ歩み寄ると包丁を掴んだ。 取っ手は脩が握り締めているので、刃先の部分を掌で包み込み、首を左右に振った。 「離しなさい」 「お父さ……」 驚いた脩は慌てる余り、包丁を離すのではなく、思い切り引いてしまった。 刃先は眞一の掌を速やかに裂いた。 白い皮膚に赤い筋が刻まれたかと思うと、見る間に傷口に血液が満ち、ぽつぽつと生じた小さな赤い玉は次々にふわりと弾けた。 「どうしたの?」 あどけない子供の呼び声を背中で聞いた眞一は、刃先を持つ手にさらに力を込めると、凍りつく脩の片手から包丁を引き抜いた。 流しの上にあった布巾を掌に雑に巻きつけて台所のドア口に立つ子供へと後戻りする。 「しゅう君、どうしたの? だいじょうぶ?」 「大丈夫だよ、平気だから」 「おてて、けがしたの?」 「うん、ちょっとね」 「ごめんね」 「え?」 「ぼくが来たから、けんか、した?」 眞一は何度も首を左右に振った。 湿っていた布巾が鮮血でさらに濡れていく。 意識から蔑ろにされていた痛みが、今やっと、皮膚の内側に湧き始めていた。 「ぼく、来なきゃよかった?」

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