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おとうさんと(永遠に)いっしょ-7
蛇口から水道水が止め処なく放出されている。
頭を押さえつけられた小さな脩は洗面器の中で窒息しかけていた。
女は笑うでもなく、怒るでもなく、悲しむでもなく、嫌がる脩を押さえつけていた。
その光景を目の当たりにした眞一はほんの一瞬、思った。
女を殺してやりたいと。
食用のサラダオイルで子供の背中に書かれた落書きを全て消し、洗い立てのタオルで綺麗に拭いてから、眞一は彼の手を引いて外へと出て行った。
台所でずっと放心していた脩は、やがて、それが視界に止まって、双眸を力なく瞬かせる。
キャベツを途中まで刻んだまな板の上に放置された包丁。
そのそばに点々と落ちた血。
大好きな、眞一の、血。
アパートにいた若い男は近所に住む眞一の訪問に特に驚くでも不審そうにするでもなく、すんなりドアを開いた。
「もしかして、背中の、見ちゃいました?」
あんなの、冗談ですよ?
ストレス解消っていったら何だけど、ただ、ふざけただけっていうか。
別に痛いわけじゃないし。
なぁ、星哉?
「うん」
大きな手で頭を撫でられた星哉は嬉しそうに笑った。
真夜中。
台所も居間も、その家の階下の明かりは全て消し忘れられていた。
夕食の準備途中でコンロ上の鍋には水が張られたままとなっており、キャベツはまな板の上で新鮮さをなくし、萎れて。
点々と落ちていた血は乾いてどす黒くこびりついていた。
「あ……」
二階の一室から声がする。
薄暗い部屋には夜の冷気と、隈なく曝された人肌の放つ熱と、乱れた息遣いが混ざり合っていた。
ベッドに仰向けとなった眞一は片腕で顔を隠して、呻く。
彼の股間に頭を埋めた脩は頻りに口腔を蠢かせながら、芯の生じた隆起に唾液を纏わせる。
いとおしげに、呑み食らわんばかりに、咀嚼し、嚥下する。
根元辺りまで口にして喉奥で締めつけては、上下の唇で嬲り、舌で愛撫する。
「う」
枕に片頬を押しつけて眞一は堪えきれずに仰け反った。
背筋を小刻みに痙攣させ、苦しげに、放精する。
己を捕らえて放さない口腔にそのまま白濁を打ちつける。
血肉の一つにしたいがために脩は全てを飲み込んだ。
そうして眞一の隆起を解放すると、腹部や内腿に飛び散っていた雫まで丁寧に一滴ずつ舐めとって、徐々に、肌伝いに頭を上へとずらしていった。
胸の突端に滲む薄赤い尖りに吸いつくと、ざらついた舌端で擦り上げ、食む。
「は……っ」
双丘の窄まりに沈んだ手の指先が、後孔をなぞり、ぐっと、中へ入ってくる。
「く」
胸の突起にしゃぶりつきながら指を奥へとゆっくり進めてくる。
「ぁ」
すでに入れていた指を力ませて入り口を抉じ開け、生じた僅かな隙間に、もう一本、捻り入れる。
「んんっ」
眞一は翳した腕の下で唇をきつく噛んだ。
尖らせた舌先で鎖骨の溝を辿り、首筋を舐め上げた脩は、その腕を退かして、きつく閉ざされた唇にキスを落とす。
ビクリと過敏に震えた肢体に構わず、上下の唇の狭間を左右に舐り、健気に拒絶を解こうとする。
「……」
恐る恐る眞一が唇を開くと、すぐさま、深い繋がりを求めて濡れた舌が滑り込んできた。
「ふ……」
淫らな水音を奏でて脩は眞一の口腔を堪能する。
下唇を緩く噛まれて、眞一は、それまで瞼の裏に遮断していた視線を物憂げに紡いだ。
「やっと見てくれた」
かつてない肉欲に素直に濡らした下肢同様、脩は、その双眸を熱く潤ませていた。
張り詰めたその肉塊を指で拡げた後孔に押し当ててくる。
「挿れるよ……?」
火照りを孕んだ声はすでに上擦っていた。
先走りに湿るその先端を強めに擦りつけて、その勢いで中への侵入を果たす。
さらに拡げられる際どい痛みに眞一はまた目を閉じた。
「やだ……閉じないで」
駄々をこねる幼子じみた口調で呟くと、眞一の瞼にキスをし、脩は内壁の奥を目指して隆起を押し進めてきた。
狭苦しい内部に何度か引っ掛かりつつも、腰に力を入れ、やや強引に。
脩は根元まで眞一へと呑み込ませた。
「は……ぁ、っ」
満足げに息を洩らした脩を薄目で見上げていたら、その視線に気がついて、彼は緩やかに笑った。
「お父さん、僕、すごく、気持ちいい」
激しい律動の最中にシーツを握り締めていた右手が再び出血した。
幾重にも巻いていた白い包帯にうっすらと赤が滲む。
魘されている眞一の血に口づけて脩は思う。
この血を誰かに分かつことなど許さない。
二人だけでいい、後はもう、いらない。
二人きりで、ずっと、このままで。
おとうさんといっしょに。
end
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