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姉婿エクスタシィ-6

雪がうっすら積もる山を背景に雰囲気たっぷりに佇む老舗旅館。 日暮れを控えて茜色に染まり始めた空。 三連休を利用した一泊温泉旅行。 ガラス張りのロビーに立った由紀也さんは「素敵なところですね」と両頬を夕焼けとお揃いの色にして柔らかく微笑した。 「こども達が小さい頃から家族で泊まりにきてたのよ、由紀也さん」 「思い出深い場所なんですね」 「今日もねぇ、初めて由紀也さん交えて楽しく、そう思ってたのに。全くもうあの子ったら」 父親が旅館の従業員と夕食の段取りについて話し、由紀也さんは母親と並んで、その背後でソファに座って携帯をいじっている大学三年生の亮輔。 当初、亮輔は温泉旅行に来る予定ではなかった。 姉と、その夫である由紀也さんと、自分の両親、計四名で行くはずだった。 しかし韓流好きの姉の元に発売即完売となった韓国ライブのチケットが幸運にも手に入るチャンスが巡ってきたらしく。 何でも急用で行けなくなったので代わりにどうか、知人からそんなお誘いを直前に受け、温泉旅行と同日のライブ、自己中姉は迷うことなく……有難く便乗したそうで。 人数四名で二部屋予約していた温泉旅行へ代わりに亮輔が行くことになった。 「お義母さん。私はこの旅行をとても楽しみにしていました。彼女は彼女で、それぞれ心から楽しい時間を過ごせたら、そう思っています」 それだと結婚してる意味なくない、由紀也さん? 平静を努めようと携帯をいじっていた亮輔だが。 実際は心臓がバクバクバクバク。 ……まさか由紀也さんと温泉旅行なんて。 ……いやいやいや、親いるし、えっちなコトは絶対無理だし、そもそも来るつもりなんてなかったし。 由紀也さんはどう思ってるんだろう。 『く……ください、亮輔くんの……』 うん、もしも由紀也さんからおねだりされたら、あげよっと。 もちろん亮輔と由紀也さんは同室だった。 隣室には両親、しっぽり和室で窓からの眺めは抜群、夕日を一面に浴びた山肌に眼下を流れる川が一望できた。 「懐かしいなぁ」 幼少の記憶が蘇ってしばし感傷に浸っていた亮輔だが。 「亮輔くん」 振り返ると先程までボストンバッグの中身の整理をしていたはずの由紀也さんが背後にすっと立っていた。 うっすら天然茶色のさらさら髪で、商工会に勤務する、綺麗めアラサー男子。 義理の弟である亮輔の童貞を車上荒らしばりに大胆に奪っていった姉婿。 「お風呂、どうしますか?」 お風呂。 由紀也さんと温泉。 かぽーーーーーーーん………… 『とってもいいお湯ですね、亮輔くん……? あ、駄目です、そんな……他にもお客さんがいるのに……あ、駄目、そんなところ……だめぇ……あぁん……』 「亮輔くん?」 「あっ。えーと。ご飯までまだ時間あるし行ってこよっかな」 スケベ妄想にさらに心臓バクバクさせて答えた亮輔に由紀也さんは浅く頷いてみせて。 「そうですか。行ってらっしゃい」 あれっ? 「私は部屋のお風呂で済ませようと思います」 「え? 露天もあるのに? 由紀也さん、温泉入らないの?」 スケベ妄想をバッサリ断ち切られて内心ガッカリしている亮輔に由紀也さんはもう一度、浅く頷いたのだった。

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