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ぱぱぱぱ彼氏-4
瑛介と梢はもちろん最初っから恋人関係だったわけじゃない。
「飲み会?」
「うん。次の金曜日」
ダイニングテーブルで向かい合って晩御飯を食べていた梢と瑛介。
テーブルに並ぶ料理は全て梢の手作りだ。
「……いつもの職場のやつ?」
「うん」
「フーン、じゃー契約のアリサも来るんだ」
明らかに機嫌が悪くなった梢とその言葉に瑛介はちょっと眉を顰めた。
「……梢、もしかしてまた勝手に俺の携帯見た?」
梢は答えない、甘い味付けの卵焼きをぱくぱく食べている。
契約社員のアリサちゃん、は、ここ最近瑛介がLINEで最もやり取りしている相手だ。
付き合ってはいない。
相談相手になったり、隔月程度にある職場の飲み会では席がよく隣り合ったり、作り過ぎたからと手作りお菓子をもらったり。
そんな清い関係……。
「清くないし、ぱぱ、絶対アリサに狙われてるし」
「あのねぇ」
「それにあの内容、センパイ女子にいじめられてるって、それってただの指導でしょ、いじめじゃないでしょ、よっぽどアリサが抜けてんでしょ」
「こら、梢」
瑛介は一先ず息子の言葉を注意し、そして、もう一つ注意した。
「梢、その恰好、ちょっと……アレじゃない?」
息子の女装は一年前から始まったものだった。
学校から帰宅するとすぐにスカートに着替え、コンビニや買い物はその姿で出かけている。
好みや趣味にうるさく口出しするつもりはない。
だけど、うーん、その短さは……。
「それ、階段とかエスカレーターだとぱんつ見えない?」
ちょっとゴス寄りなチェックのスカートに黒ニーソの梢は父の問いかけに平然と答える。
「見えるかもね」
「見えるかもって……」
「ごちそーさま」
「梢、話終わってないよ」
「知らなーい」
ぱたぱた自分の部屋へ駆けて行った一人息子。
でもちゃんと食器はキッチンの流しに置いて行った、こんなことはたまにある、そして後で部屋から罰が悪そうにリビングへ戻ってくると食器洗いを始める。
自分にはできすぎた一人息子だと思う。
そうだよ、別にぱんつが見えたからって梢は男の子だし。
少し俺にべったり気味な気もするけど、友達とは遊びに行かないで、土日も殆どウチにいるけど。
まぁ、まだまだ子供なんだし、グレるより甘えられる方がいいか。
ん、本当にそうなのか?
もっと友達と遊ばせた方がいいのか?
わかーいパパである瑛介、食事も上の空に「うーん」と考え込んでいたら。
キィ
部屋から梢が戻ってきた。
「……食べた? 片づけてい?」
「あ、うん、持ってくから」
罰が悪そうにしながらもいつも通り食器洗いを始めた梢に、ついついほっとしてしまう、安易なパパなのだった。
そして金曜日。
飲み会が終わり、二次会のカラオケへ流れていく面々と別れ、瑛介は駅へ向かった。
だがアリサちゃんに呼び止められて、また相談に乗ってほしいと言われ、彼女オススメのバーへ。
ちくたくちくたくちくたくちくたく
聞こえるはずのない秒針が瑛介の脳内に鳴り響く。
お酒片手にアリサちゃんがピヨピヨお話する傍ら、何度も携帯を見、現在時刻を確かめる。
その時に瑛介は気が付いた。
梢は飲み会にイイ顔をしないが、決して「早く帰ってきて」なんてメッセージを寄越したりしない。
何の連絡もせずに、ただ、家で帰りを待っている。
ソファで寝ていることもある。
ああ、本当、梢はできすぎた息子だ。
それに比べて俺ってなんて……なんて……父親だ。
「ごめん、俺、帰るね、それからもう相談事には乗れない、飲み会もこれからは出ないと思う、じゃあ、気を付けてね、お金は置いていくから、じゃあお疲れ様」
自宅マンション付近まで帰ってきたところで瑛介はぎょっとした。
「やだ……やです、やだってば」
女装した梢が自分より年上と思しき酔っ払いリーマンに路上で絡まれていた。
ぶん殴りたい衝動を寸でのところで堪えて「警察呼ぶぞ」と相手リーマンを一喝し、ついでに「また同じことしやがったら金属バットで病院送りにするからな」と付け足して。
その場から梢の手を引いて足早に立ち去った。
どうしてこんな夜遅くに外にいたのか。
答えは簡単だ、いつ帰るかもわからない俺を迎えにきて、待っていたから。
掌伝いに感じる梢の震えに、瑛介は、ぎゅっと唇を硬く結んだ。
「ねぇ、梢」
「……ごめん、ぱぱ」
「違う、謝るのは俺の方だから」
「……」
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