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好き好き大好きサバトラさん/美形息子×元ゾク総長パパ←元参謀

鯖草春虎(さばくさはるとら)は何を隠そう元暴走族総長だ。 通称<サバトラ>として<百虎隊(びゃっこたい)>というチームを率い、静かな海辺の町を夜な夜な爆音で唸らせては荒くれ集団の先頭を切ってドルルルルッと豪快に海岸線を走り抜けていた。 そんな春虎は十八歳にして父となった。 父となった春虎はチーム解散という選択をとり、無茶は散々やるものの、一本筋が通った彼の人柄に惹かれてついてきていた皆は誰も総長に反対せずに。 <百虎隊>は解散となった。 春虎は家族のため全うになろうと溶接工の資格をとり、町の造船所で働いた、正に汗水垂らしてえんやこらな日々、家族のことを思えば何にも苦にならなかった。 「はるとらー」 春虎は息子の(りん)を溺愛した。 自分とはまるで違って、柔で、軟弱で、女の子に見間違われるくらい可愛らしい燐をそれはそれは過保護に育てた。 嫁に若くして先立たれるとその過保護ぶりにはより拍車がかかった。 「ウチのムスコを<腐った鯖>呼ばわりしたガキはどこのどいつだ、逆にてめぇら天日干しにすっぞ、おらおらおらおら」 「きゃーーー!」 「サバトラにさばかれちゃうーーーー!」 「こ、困ります、鯖草さんっ、門を乗り越えて園内に勝手に入られてはっ」 燐も燐で強い父のことが大好きだった。 「はるとら、はい」 「お! なんだなんだぁ?」 「サバに乗ってるはるとらー」 「さ、鯖かよ、シャチとか鮫の方がかっけぇけどな、でも燐は絵がうまいな! 一流の画家になれんぞ!」 火傷の痕がちらほらある手で頭をわしわし撫でられた燐は満面の笑顔で言う。 「ぼく、将来、なりたいもの、あるの」 「おお! なんだよ、言ってみろよ、総理大臣か!?」 きちゃないツナギ姿の春虎にぎゅっと抱きついた燐。 同じ幼稚園に通う女の子から毎日代わる代わる告白されているスーパーモテ園児は断言したのだ。 「はるとらのおむこさんになるの」 「サバトラさん、燐君、元気にしてるんですか」 造船所の昼休憩中、すぐ近くにある洋食レストランでコロッケランチをガツガツ食べていた春虎はカウンター向こうに立つ元<百虎隊>の店員をジロリと睨んだ。 「もう高校生ですよね」 チームにおいて陰の参謀と言われていた一舜(いっしゅん)、春虎より二つ年下の三十三歳、当時はよく総長バイクのケツに乗っていた。 チーム解散後に上京し、最近、海辺の町に戻って実家の店の引き継ぎ期間に入っている一舜に春虎は言い放つ。 「このコロッケ、親父さんが作んのと比べてクリーミーさが足りねぇ」 「すみません」 「カリクリームコロッケの濃厚さも足りてねぇ」 「明日には改善させます」 元ゾクとは思えない穏やかな雰囲気の一舜に、元ゾクなんだろうなとすんなり納得できる目つきの悪い、ツナギがどえらく似合う春虎は「でもソースはうめぇ」と最後にお褒めの言葉を述べた。 「……ありがとうございます」 「ほらよ、勘定」 「確かに」 「じゃあな、明日はオムライスランチな」 「わかりました、よかったら、週末にでも燐君と一緒に来て……」 また睨まれて一舜は言葉を切った。 春虎はそれ以上何も言わずに洋食レストランをカランコロン後にした。 「おかえりなさい、春虎さん」

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