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エクストリーム系家族-2

「れーじ、ウチいづれぇのなら俺んちしばらく泊まってもいーぞ?」 バイト先の先輩の有難い申し出をレイジは即座に受け入れた。 それから三日間家に帰らなかった。 学校には先輩宅から登校した。 無償で泊まらせてくれた先輩への恩返しとして、先輩の彼女よりも掃除洗濯料理に励んだ。 当然、父親と長男からの着信が山のようにスマホに積み重なったが、全て無視した。 「また黒狼出たってよ、しかもヤクザ相手に暴れたとか」 「こっわ、でもなんでそんなネーミングついたわけ?」 「全身黒ずくめで、何かすげぇスピードらしくて、パンチもキックもパない破壊力なんだと」 厨房で、盛りつけ担当の二人が「黒狼」について話しているのが聞こえ、皿洗いしていたレイジは小さく笑う。 ずっと先輩のアパートに邪魔しているのも忍びなく、一端帰宅するかと、バイトが終わったその夜に近道して久しぶりに自宅方向を目指していたら。 「やめてくださッ……誰か助けて……!!」 悲鳴がした。 外灯と人通りが極端に少ない高架下、女性の独り歩きなどとてもじゃないが推奨できない暗い道だった。 「友達があっちに……!」 暗がりから飛び出してきた女の子にしがみつかれ、手を引かれ、古いビルを解体中の工事現場まで導かれて。 待ち伏せされていた。 陳腐なトラップにまんまと引っ掛かり、背後から鉄パイプで背中に一発、倒れ込んだ間際に腹部をモロに蹴り上げられた。 「俺の歯の治療代代わりにボコらせて♪」 先日、レイジに叩きのめされた他校ヤンキー共だった。 三人から五人に増えた彼らは黒マスクのレイジ目掛け、手にした鉄パイプやら粗相好きの足やらを一斉に振るおうとした。 「やめて!!!!」 人を騙すのに成功して興奮し、はしゃいでいたはずの女の子がガチな悲鳴を上げた。 何事かと、ネットフェンス際のアスファルに倒れ伏しているレイジから視線を移し変えてみれば。 「や、やめて、マジでやめてお願い」 ガタガタ震える女の子のすぐ背後に一人の青年が立っていた。 点滅するライトに浮かび上がる、黒縁眼鏡をかけた、今にも暗闇に溶け込めそうな黒ずくめの。 「わたし、ただこの人達に言われて、言われただけで、別にそんな、遊び半分で」 硬直したヤンキーらはゴクリと息を呑んだ。 少女の首筋にあてがわれている、細身ながらも鋭い凶器に目を疑った。 「それならば私も遊び半分で君のこと殺してみてもいいですか?」 青年ではない、四十代で、身長183センチの、世にも見目麗しい姿形をした皐は仕事道具のメスを翳して微笑んでいた。 「私の息子に酷いことをしないでください」 「は……息子……? え、コイツ、コイツのオヤジ……?」 「おい、ふざけんな、俺の女に何してんだテメェ!」 「弱ぇ女に手ぇ出すとか最低最悪じゃねぇか!」 ガタガタ震える少女の頸動脈寸前でメスをピタリと止めている皐は、片手で眼鏡をかけ直した。 「最も罪深きは彼女、そう判断しました。私の息子ならばこの人数に敗することはありません。きっとこの少女に誘い出され、不意をつかれたのでしょう。万死に値します」 美しく微笑みながら今にも少女の首筋を掻っ捌きそうな皐にヤンキー数人は恐れ慄き、数人は見惚れた。 「一体いくつだよコイツ、何歳で産んでんだよ、小学生ン頃かよ」 「なぁ……まさかコイツ……」 「えぇぇえ……?」 「コイツこそ、く、く、くろおおか……」 「黒狼じゃありませんよ」 甘えたがる夜風にロングジャケットの裾をはためかせ、皐は、艶めくバリトンの声色で言う。 「彼は単独で狩りを行う一匹狼です」 聞き返す暇もなく。 レイジを背後から鉄パイプで襲った者、腹部を蹴り上げた者がその場から吹っ飛ばされた。 凌貴だった。 父親と同じく黒ずくめで身長181センチの長男による華麗な回し蹴りを食らって、一人が吹っ飛び、その軌道にいたもう一人も吹っ飛んだわけだ。 「おうちに帰りなさい?」 黒狼が来る前に。

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