7 / 132
スパイシースウィートホーム-7
暖房がよく効いたリビング。
一楓は棒立ちになっていた。
真正面にはいつものように夜遅く帰ってきたばかりの奏之がいた。
スリムコートに手袋もそのまま、ぱっと見だって普段と変わらない様子であったが。
お、怒ってる、お父さん。
おれそんなひどいこと言った……?
『今日見たよ、街できれーな女の人といっしょいるとこ、もしかしておれってあの人の練習台か何かだった? んなこと息子に押しつけないでくれる』
おかえりも言わないでリビングにやってきた父親に皮肉たっぷりにそんな言葉を投げつければ、ただいまも言わないで、先の台詞。
キャメル色のビジネスバッグをソファに下ろした奏之はさらに一楓の前へ踏み出した。
「目を閉じなさい、一楓」
えっっっ。
おれ、殴られる?
幼少期に叩かれたこともなかった一楓、どうしようと強張っていたら、再び。
「目を閉じなさい」
いつにない迫力に圧されて一楓は慌てて目を瞑った。
殴られるだろう衝撃に備えて、ぎゅっと唇を噛み締め、拳まで握っていた、ら。
奏之にキスされた。
めちゃくちゃハードなやつをお見舞いされた。
あっという間に下顎がびっしょびしょになった。
「嬉しいよ、一楓」
ビクつく瞼を持ち上げ、とろんとろんになった双眸でおっかなびっくり見上げてみれば。
視界に写り込んだのはいつにもまして美しい微笑みだった。
「へ……っ?」
「やきもち、やいてくれたんだね」
「は……っ?」
「彼女は入社したばかりのパラリーガルだよ。事務所に飾るクリスマス用のモニュメントを探してたんだ、ああ、やきもちやく一楓、なんて可愛いんだろう、もういっそこのまま……」
「んぶーーーーっっ!」
着替えをさぼって制服のままでいた一楓を抱きしめ、奏之は、飽きずに熱烈キスを再開した。
繋がれた唇の内側で愛情深い舌先にたっぷり甘やかされる。
ふやけそうになるまで、繰り返し、角度を変えては、大胆に。
「んっんっんっんっ」
仕舞いにはガクリと一楓の腰が抜けた。
それでも極々平均的サイズの体を支え、奏之は欲望のままにキスを続けた。
「ン……でもやっぱり……クリスマスまでとっておこうね」
酸欠寸前まで追い込まれてぐっっったり気味な我が子をお膝に乗っけて、ソファに落ち着いて、いとおしげに頬擦りする。
どうしよう、お母さん。
このままだと、おれ、お父さんにガチで食べられちゃうかも……性的な意味で。
ともだちにシェアしよう!