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ゲイ専デリヘル呼んだら弟が来た/隠れブラコン兄×目つき悪ノンケ弟

正敏(まさとし)はドアを開いて「え?」と目を疑った。 安吾(あんご)はドアが開かれて「は?」と目を疑った。 他人の空似、そんな考えも一瞬頭を掠めたが。 目の前に立っている人物は明らかにそうとしか思えない。 「安吾……?」 「兄ちゃん?」 世にも気まずーーーーーーい空気が流れた。 まさか兄がゲイ専用デリヘルを呼んで。 弟がやってくるなんて。 そこはシティホテルだった。 会社員・二十六歳の正敏、出張先というわけではなく一人暮らし中の自宅マンションを知られたくないと思い、週末夜のデリヘル利用のためわざわざツインルームの予約をとっていた。 「まさか兄ちゃん、ホモだったとは」 黒髪、眼鏡、シンプルな私服姿の正敏は両手で顔を覆った。 「ちょっとしばらく黙っててくれ、安吾、まだ動悸がしてる」 清潔感ある、乾燥防止のため加湿器稼動中の部屋。 片方のベッドに腹這いになった弟は兄と反対にリラックスしているようだ。 「意外な気ぃするし、納得って気もするわ」 黒髪、目つき悪い、十九歳の実家暮らし現役大学生のはずが男子高校生風に制服を着用した安吾。 シャツにネクタイ、エンブレムつきカーディガン、チェック柄のズボンを違和感なく着こなしている。 「どういう意味だ、納得って」 カチャ、と眼鏡を押し上げて聞き咎めた正敏に安吾は答えた。 「高校、大学、カノジョの話一切聞かなかったし」 大学卒業まで実家で暮らしていた正敏、確かに家族の前で恋人の話をしたことはなかった。 「……いたよ、彼女は」 「うそ、まじで」 「ただ、どの相手とも長続きしなかっ……いや、俺の話はいい、おい、安吾」 お前どうしてこんなことやってるんだ 「ちょっとパチンコで色々と」 「……」 「とーちゃんかーちゃんにはナイショ」 「当たり前だ。二人とも失神する」 「それ、兄ちゃんにだって言えない?」 「……」 「ホモって知ったら、あ、バイになんの? まーとにかく真面目な長男がゲイ専デリヘル愛用してるなんて知ったら失神どころじゃ、」 「愛用なんかしてないッ」 思い切って、今夜、初めて。 サイトをチェックし、片手で目元が隠された顔写真を一つ一つ丁寧に眺め、決めた。 珍しい黒髪だった<あーくん>に。 「今日が……初めてだ……」 腹這いから起き上がってあぐらを組み、クッションを抱いた安吾は、ずっと窓際に立ってやたら片手で顔をなぞっている正敏に笑った。 「それ」 「え?」 「兄ちゃんのクセ。心配だったり悩んでるとき、やたら顔ぺたぺたさわんの」 どこか不良っぽい雰囲気がある安吾。 実際は中高一度だって授業をさぼったことがない、喫煙飲酒の経験もゼロ、大学だってちゃんと講義に出てコツコツ単位を稼いでいた。 だがしかし無類のパチンコ好き。 先月貯金ゼロになり、これやばいなー、なんて軽い気持ちで稼ぎのいいバイトを探していた。 「……別に俺は男が好きってわけじゃ」 「はい? それならふつーのデリヘル頼むじゃん?」 「……もういい、やっぱりまだ動悸がしてる、今日は帰ってくれ。今度ちゃんと話そう」 「代金は?」 「……」 ため息をついた正敏はやっと夜景が見下ろせる窓際から離れると、隣ベッドに置いていたバッグを手繰り寄せようとした。 「せっかくだし試してみる?」 財布を取り出そうとした手が、ぴたり、欲望に正直に止まった……。

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