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ひとりじゃできないもん/ハンサムパパ×隠れすけべ中学生息子
「あづクンって見た目はいーんだけどね」
「そーかなぁ、ちょっとこわくない?」
「あんま話さないよね、てか、ブアイソー」
「ソレっ。ソレがねー」
「根暗っぽい」
「あっ、でも同小だったコから聞いた話っ、おとーさんめっちゃイケメンらしーよ!?」
「「「へ~~~」」」
引き出しに忘れてきた宿題のプリントをとりに、生徒用玄関から教室前まで戻ってきた安積 千榛 は。
クラスで一番目立つ女子グループの会話が耳に入るなり、回れ右、プリントを諦めてその場から走り去った。
「あづ、プリントちゃんとあった?」
「明日の朝やればいーのに」
運動部が練習に励んでいる校庭傍らで待ってくれていた友達二人に千榛は「ん」と頷いてみせた。
制服の白ポロシャツから伸びた褐色の腕。
極々平均的な体つきながらも発育のよい女子よりかは華奢な中学二年生。
小生意気そうな吊り目に反して性格は至って控え目、集合写真では常に後ろ、体育祭や文化祭では無難な役回りを淡々とこなす地味男子。
千榛は片方の家に行くという親しい友達二人と別れてスーパーへ立ち寄った。
慣れた風にスムーズに買い物を終えると、駅近くに建つマンションへ帰宅し、下だけ部屋着に着替えて夕食の準備にとりかかった。
「ただいま」
夜七時を過ぎた頃、千榛の父、真之 が帰ってきた。
「おかえり」
「もしかして煮込みハンバーグ?」
「うん」
「今日、正午に来客の予定があったから早めに済ませて、それから何も食べてない」
真之は個人事務所を営む司法書士だ。
涼しげに整ったマスクにスマートな体型、スケジュール管理は最新iPhone、清潔感ある身だしなみ、しつこくない程度に香るシトラス。
三十九歳の真之は大好物のハンバーグが夕食だと知って嬉しそうに笑った。
スーツとネクタイを受け取った千榛、無愛想よろしく、特に笑い返すでもない。
父と子は二人で暮らしていた。
無愛想だが反抗期というわけでもない千榛は家事を淡々とこなし、中学に進学してからは食事も作るようになった。
「コンビニも外食も飽きたから」
「千榛がそう言うならお願いするけど。包丁の取り扱いには気をつけるんだよ。揚げ物は手間もかかるし危ないから、お父さんがいる時にだけしなさい」
最初はそう注意された、しかし今では父親がいようと不在だろうと山芋の天ぷらやエビフライだって一人で作るし、鍋物や煮物もレパートリーに追加されている。
「これ、柚子コショウはいってる?」
「ちょっとだけ」
「おいしい。アオサのお味噌汁も、ニンジンのソテーも」
「おとうさん、おかわり、つぐから」
千榛が二杯目のごはんを父親専用のお茶碗によそっていたら携帯が鳴った。
退社後、職場への電話が来るよう転送の処理をしている司法書士は食卓から立つとリビングで新規と思しき客と話し始めた。
「ええ、そちらのご都合に合わせますので……では、明日の夜七時ですね、承りました……」
シンプルながらもセンスのいい部屋着に着替えた父の後ろ姿を、千榛は、秘かにじっと見つめていた……。
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