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色恋本番は二十歳を過ぎてから/年下パツキン助手×年上何でも屋

平日の午前中、ホームセンターの片隅で。 様々なハサミが並ぶコーナー前で十分以上も彫刻さながらに立ち尽くしていた制服姿の十六歳の博晶(ひろまさ)に男は声をかけてきた。 「なぁ」 男はスポーツ用品コーナーから持ってきた木製バットを翳して薄暗い表情の男子高校生に続けた。 「刃物はやめとけ。こっちにしとけ」 「……」 「<誰か>じゃなくて。これで<何か>を壊しとけ」 そんなことがあって、月日は流れて、四季は巡って。 翌日に二十歳の誕生日を迎えた博晶は。 「お疲れ様です、リョウさぁん……」 「どうした、それ」 「トランス状態のライブ客に殴られました……あはは」 「殴られたのか。お疲れ」 壱岐(いき)了成(りょうせい)が切り盛りする何でも屋(正式名称→何でもいきいき屋)の住み込み助手として働いている。 事務所は繁華街の裏通りにある雑居ビル三階、ちなみに二階は雀荘、ちなみに全体的に小汚い雰囲気だ。 二つある部屋の内、一つは博晶の居住スペース、もう一つには仕切りのパーテーションもなしに見栄えの悪い応接セット、書類やら写真やらUSBコードやらバックアップ外部機器でとっちらかったデスク、雑誌などが今にも落ちてきそうな窮屈な本棚。 整理整頓とは無縁な雑空間が広がっていた。 「ヒロ、コーヒー頼む」 見栄えの悪い応接セットのソファでタバコ片手にノートパソコンを開いている了成。 やたら黒々とした髪は無造作に放置され中、でも髭剃りは毎日欠かさず行っている。 痩せ型の体を覆うはくたびれたスーツ上下に白いワイシャツ。 鋭く整った男前なる顔立ちだが性格は温厚というか……地味というか……淡泊な三十七歳。 「はい、どうぞ」 一方、博晶はきんきらパツキンだ。 近所の美容室に頼み込まれてカットモデルとしてお仕事し、黒髪に戻そうとしたら「いけてるぞ」と了成に言われ、そのままにしていた。 高一の身体測定では身長180センチだった、恐らく伸びているに違いない。 マラソンしたり、迷い犬を追いかけたり、迷い猫を探して木登りしたりと、毎日トレーニングは欠かさない。 オネエ様方に好評なハニーな顔立ちと性格の十九歳。 失神者続出という激ライブの係員としてお仕事し、ダイブした客をステージ前で下ろしていたら殴られて頬に絆創膏をはっつけた博晶は。 「今日はもう風呂行ってきていい、戻ったら休め」 了成に恋している。 リョウさんと出会っていなければ俺は犯罪者になっていた。 重い重い罪の犯罪者に。 夜の九時過ぎ、おっちゃんじいちゃんが行き来する古めかしい銭湯、博晶は湯船の端っこに落ち着いた。 しわしわな体、メタボ寄りな体、立ち上る湯煙の向こうに、過去の自分、独裁者の父、完璧主義の母、偽善者の兄を思い出して……ばしゃばしゃ顔を洗った。 「いてッ」 頬が沁みた。 銭湯を終えるとコインランドリーで洗濯が終了していた服を引っ張り出し、乾燥機に入れて、待機。 リョウさんは前は司法書士だった。 弁護士とどう違うのかはっきりわからないけれど、過払い・借金の整理とか、後見人とか、登記を専門にしていたみたい。 二十代で独立して一人でバリバリ頑張って。 仕事は順調、広告も出したりなんかして、あの淡泊なリョウさんが自分を大々的に宣伝するなんて今じゃ考えられないけど。 ある日「壱岐司法書士事務所」を一人の客が訪れた。 借金相談だった。 自己破産をしたいとのことだったが、条件が合わず、希望に添えられないと了成はその場で断った。 次に客が控えていた。 感情に左右された身の上話には聞く耳持たず、冷血と言えるくらい容赦ない判断を下して退去を促した。 客は持参していたカッターナイフでその場で手首を斬った。 最後の頼みの綱で新聞の端に宣伝広告が載っていた了成の元を訪れていたのだ。 すぐに救急車に運ばれて命に別状はなかったそうだけど。 司法書士として、いや、人として自分の対応を悔やんだリョウさんは事務所を畳んだ。 そして今の何でも屋を始めた。 そんなリョウさんがとても人間らしくて、俺と出会う前の過去を教えてくれたリョウさんが、とても……愛しくて。 もちろんナイショにしてる。 男相手に初恋、しかもリョウさん、リンリンさんやネネさん(情報通のオネエ様)に相談したい気もするけれど「そんなん押し倒しちゃえばいーのよ」とか言われそうで……やっぱり誰にも言えない。 でも明日で俺も二十歳だし!! リョウさんに告白してみようかな!?

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