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色恋本番は二十歳を過ぎてから-5

今日も朝から博晶は大忙し、庭掃除だったり迷い猫の捜索だったり犬の散歩だったり、地味な……街の人々のためにせっせと甲斐甲斐しく働く。 「ヒロりん、今日もお肌ツヤツヤ~」 「分けてッ、アタシにもそのツヤツヤ分けなさいッ」 昼に事務所に戻ればリンリン(前島麟十郎)とネネ(根岸泰三)の情報通オネエコンビに出迎えられ、手作りサンドイッチをご馳走になった。 「朝一からせっせと営んでたからな」 撮影した浮気現場の写真データをパソコンでチェックしていた了成が余計なことを言い、真っ赤になる博晶、興奮するオネエコンビ。 「ヒロりんったら、この間まで未成年だったくせに~」 「相手誰よッ、言いなさいよッ、言わないと地獄おとすわよッ」 「釜で茹でられてカマほられちゃうわよ~」 相手はリョウさんです、ただし二十歳の誕生日前夜の記憶の中のリョウさんですけど。 両隣から擦り寄ってくるオネエコンビに「ごちそうさま!」とハニーな笑顔を浮かべ、博晶は午後一の仕事(引っ越し手伝い)へ向かった。 午後最後の仕事(墓掃除)を終えて事務所に戻れば「風呂行って来い」と了成に促され、最寄りの銭湯に向かった。 本日は肉体労働尽くしであったが慣れっこの博晶、熱い風呂とサウナですぐにリフレッシュ、帰りがけにタイムセールの弁当を購入して夜八時過ぎにサンダルをぺたぺた言わせて事務所に帰ってみれば。 「こんばんは、ヒロ君」 了成は不在、代わりにごちゃごちゃした雑空間にはひどく不釣り合いな、パリッとしたスーツ姿の久坂が見栄えの悪い応接セットのソファ前に立っていた。 「了成は不倫現場の張り込みに行ったよ」 地方裁判所に勤務する刑事部書記官B係。 了成と昔からの知り合いだとか。 「こ、こんばんは、久坂さん」 実のところ博晶は了成と久坂の仲を疑っている。 ぶっちゃけ、了成の元彼なんじゃないかと、思っている。 久坂さんってやたらリョウさんに触れたがるというか。 過去に何かありましたよ的な匂いをプンプンさせるんだよな。 「それ、お弁当?」 「あ、ハイ」 「これ、よかったらデザートにどうぞ」 差し出された白い箱に博晶は目を見張らせた。 「この間、二十歳になったんだってね。さっき了成に聞いたよ。どうもおめでとう」 ホワイトムスクが仄かに香る久坂に祝福されて、疑心の念はどこへやら、博晶はエヘヘと照れ笑い、ケーキの箱を嬉しそうに受け取った。 「ありがとうございますっ」 「ここに来てもう四年目くらい?」 「はいっ」 「ヒロ君、身長高いよね」 「高一のときは180ありましたっ」 ケーキをもらって子どもみたいにニコニコしている博晶と向かい合い、久坂もまた微笑んだ。 「頬の腫れ、大分引いたみたいだね」 前回に会ったときは絆創膏をしていた、今はうっすら青みがかっている博晶の片頬に手をあてがう。 「あんまり無茶しないようにね」 あれ、なーんだ。 リョウさんだけじゃない、俺にも触ってる、久坂さん。 こんな風に触られるのは初めてだけど。 もしかしてそういう人? 触り癖、あるのかな?  きっと誰彼構わず触っちゃう人なんだ! 「おい」 久坂に頬をナデナデされて疑心の念が吹き飛び、さらにニコニコしていた博晶が視線を向ければ。 味気ないスチール扉を開けてタバコを咥えた了成が事務所に入ってくるところだった。 「まだいたのか」 「事務所を無人にしたら不用心かと思ってね」 「そのケーキは。いつ買った」 「五分ほど不用心にさせて頂きました」 ターゲットの不倫現場を押さえるつもりが。 博晶が先日誕生日を迎えて成人になったと久坂にうっかり口を滑らせたことにじわじわ危機感を覚え、回れ右した了成。 案の定、未成年じゃなくなった彼に早速ちょっかいを出してきたと、内心舌打ちした。 「お疲れ様です、リョウさん!」 助手は助手で鈍感ときている、狙われていることにまるで気づいていない。 『リョウさんって、久坂さんと、もしかして付き合ってたりしました?』 そんなわけあるかよ、こいつはバリネコなんだぞ、博晶。 よって俺とこいつが付き合う可能性は万に一つもない。 「今度ちゃんと二十歳のお祝いしようね、ヒロ君」 始終にこやかなまま久坂が去り、博晶はもらったケーキの箱を両手で持ってわざわざ了成に報告した。 「久坂さんにケーキもらっちゃいました!」 すると了成は博晶のニコニコ顔に向けて言い放つ。 「うるさい。とっとと食って寝ろ」

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