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強気上司とラブホHって経費で落とせますか?-5

倉科譲司法書士(38)は独立した。 前事務所での引き継ぎやら開業準備の同時進行で正にてんてこまいになりながらも、市街地中心部にある、なかなかお高い賃料のテナントビル六階フロアに新事務所を構え、長年胸に秘めていた、そう、夢を実現することができた。 広告は一切出さないのがモットー、開業当初は前事務所で担当になっていた相談者のツテや、やはり倉科に対処してほしいと相談者本人がやってきてくれたりと、滑り出しはなかなか順調。 青年司法書士会にも所属しているため、そちらの活動にも顔を出し、法テラスの相談会にも当番制で参加したり。 多忙な時は夜十二過ぎまで事務所に居残ることもあった。 ちなみに補助者もアルバイトもいない、倉科一人ですべて回している。 「……猫の手がほしい……」 デスクにうつ伏せになったお疲れ倉科、うわ言のように肉球のぷにぷにを欲する夜も少なくなかった。 独立して半年と数ヶ月が過ぎた。 先週末に全青司の遠方出張を終え、週明けに自己破産の膨大なる書類を地裁に提出して申立を済ませ、週半ばに不動産登記に立ち合い、その日に法務局へ登記申請して。 「今日で完済となりましたよ、Aさん」 「本当ですか! ああ、ほんっとう、倉科先生にはお世話になりました!」 債務整理を引き受けていた依頼者に借金完済の連絡をいれて、本日金曜日の業務、終了。 夕方を過ぎた七時、ブラインドの隙間越しに街明かりが差し込む中、倉科は「うーん」と回転イス上で背伸びをした。 「今日は飲んで帰るぞ、ちょっと贅沢してやる」 久しぶりにまるっと休める土日を前にしてちょっと贅沢したい気分の堅実倉科。 奥に給湯コーナー、壁際に書類棚、雑然たる自分のデスク、周りに複合機やらスキャナーやら、パーテーションを挟んで応接セット。 丁度いい広さの事務所内を行き来して帰り支度をしていたら。 コンコン 「はい、どうぞ!」 今日一日の疲労を感じさせない、こんな帰り間際に、なんて不快感など微塵も滲み出ていない声でノックした来訪者を室内へ促す倉科。 するとゆっくりと開かれた扉。 つくり笑顔ではない、自然な笑みを浮かべていたはずの倉科の顔に、びきりと亀裂が。 「……開業、おめでとうございます、倉科先生」

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