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美しい薔薇には棘どころか牙がある-7

上体を捩って頬を撫でてきた麗人の熟れた唇に翔汰朗は唇をぶつけた。 まだしぶとく腰を振りつつ、下肢と同様、歓迎してくれた彼の口内を獣じみた舌遣いで荒らしまくった。 礼儀知らずな舌先に微苦笑し、麗人は、マナーを教えてやる。 少々きつい姿勢ながらも翔汰朗の頭を片腕で抱え込み、美容師である姉の練習台にされている髪の毛を鷲掴みにし、濃密な唇同士の交わりに巧みに誘導していった。 「ン……ッぅ……ぅ」 頭皮に伝わる痛み、口内で湧き起こる甘い刺激、その対比に翔汰朗は体も心も魅了される。 「粗削りっぽいのも可愛いけど。オトナの予習もな?」 翔汰朗との繋がりを一端解いた麗人は湯の中で跪いた。 たった今まで自身の最奥に居座っていたペニスを浅く口に頬張る。 「……麗人さん」 撫でつけられた髪にぎこちなく指を通した翔汰朗は……尋ねてみた。 「誰に失恋したんですか」 その問いかけを耳にした麗人は……途中まで口内に招いていた翔汰朗を甘噛みした。 「ッ、麗人さん……っ」 「翔汰朗クン、やきもち焼きなん……? それなら俺も一つ焼いてあげよーか、阿部定みたいに」 甘噛みしたばかりの場所に尖らせた舌を小刻みに行き来させ、唾液で滴ってきたところで、また甘噛みを。 「ッ……誰が……麗人さんを、あんな……弱らせたんですか?」 あの夜。 高校生である自分より桁違いの場数を踏んでいる男ら相手に、一切の怯みなく、己の拳だけを頼りに気高く対峙した翔汰朗が。 今、余りにもひた向きに見つめてくるものだから。 「幽霊」 「え……?」 「病気で死んだ」 「……」 「あの日、葬式で、でもガキみたいに足が竦んで。弔うこともできなかった」 同じ施設で育った。 互いにとって家族で、友で。 恋心を抱いたのは麗人のみだった。 それぞれ全く違う道を選んで向こうには家族もできた、幸せならそれでいい、生きてさえいてくれたら。 麗人の些細な願いは無情な定めに打ち砕かれた。 「冷めた。それ、自分で慰めて」 躊躇なく離れるなり浴場を去って行った麗人。 薄闇により映える艶やかな背中を翔汰朗は薄目がちに見送った。 まだだ。 まだあの人は俺のものにならない。 まだ弱い俺はあの人の致命傷を掠ることすらできない。 でもいつかきっと…………。 「似合うとる、翔汰朗クン」 「……」 「絡み合う蛇二匹。色っぽかぁ。今すぐ翔汰朗クンのこと半裸で往来連れ回して見せびらかしてよか?」 「……」 「何、翔汰朗クン。ブスッとして。気に入らんかったと?」 特定危険指定暴力団、黒天組直系の影山組事務所にて。 ビル街に自然に溶け込んだアジト、オフィスの幹部室と何ら変わりない奥の部屋。 麗人に見せるため脱いでいた服を着、翔汰朗は不満を洩らした。 「いい加減、その呼び方やめてもらえませんか」 ブラインド越しに洩れる夕日を双眸に掬って自分をじっと見つめてきた部下に麗人は笑う。 「だーめ」 「……」 「生意気言うたら駄目。君はまだまだクン止まり」 「……」 「今後の働きぶりによっては、なぁ。お殿様扱い? 地べたに頭くっつけて翔汰朗サマ~なんて拝んでやってもよかけど」 血の跡が点々と染みついている革張りのソファに腰かけて足を組み、翔汰朗が締めたばかりのネクタイを掴んで引き寄せ、彼は言う。 「翔汰朗クンのこと、もっとじっくり調教させて?」 見え透いた据え膳に引っ掛かる若雄が一匹。 研がれた牙持つイバラ姫の全てを手に入れるのはまだまだ先らしい……? end

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