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美ボイス刑事さん、いらっしゃあい!/美中年刑事×年下隠れゲイ刑事

二十代で隠れゲイの安芸(あき)刑事は。 四十路バツイチ色白美中年の周防(すおう)刑事に実のところ首っ丈だ。 「主任が飲み付き合うって珍しいっすね」 「酒弱いんですか?」 魚が旨い居酒屋の個室、所轄警察署の刑事課捜査第一係に属する三名がまずは突き出しを肴に生を一杯やりながら和やかに談笑している。 最も目を引くは美中年刑事の周防警部補だ。 たたき上げの刑事達を束ねる捜査班の主任であり、鋭い観察力、予想外の現場に直面しようと決して鈍ることのない判断力、そして……美力に長けていた。 「健康のため最近は控えているのですが、時にはこうして皆さんと飲んでみたいと思って」 そんな周防の美オーラに密かにクラクラきている一名。 彼に片思い中である最年少の安芸刑事だ。 開け閉め頻繁な襖に一番近い場所で想い人からはちょこっと距離があるものの、テンションは上々、秘めたる興奮が止まらない。 なんてイイ匂いなんだろう、周防さん。 香水みたいにキツクなくて、ふんわり優しく香ってくる周防フレグランス。 男くさい先輩方とは雲泥の差、周防さんは香りまで美しいんですね。 「皆さんお強いのでしょう、係長から花見の席での逸話を聞いたことがありますよ」 何と言っても周防という人物における一番の美力ポイントは、声、だろう。 艶めくバリトン美ボイス。 おとぎ話でも口ずさもうものなら幼女は初恋を知る、愛を囁かれようものなら人妻は禁断の恋を知る……ことになるだろう、多分。 「主任って声いいっすよね」 「声優みたいですよ、イケメン外人の吹替とかやれそう」 ノンケな刑事二名はワハハと笑って揶揄したりなんかする。 ゲイな刑事は……勃起するな、勃起するな、と自身に祈る。 以前は周防の美ボイスを聞いただけで勃ってしまうという体たらくに陥っていた安芸、現在は何とか克服して通常形態でいられるが、いつどんな拍子で勃起形態になってしまうかわかったもんじゃなかった。 「安芸、お前いつもより静かじゃねぇか?」 「ッ、気のせいですよ、先輩」 「主任が来てるから緊張してんだろ」 「私に緊張? 本当ですか、安芸君?」 グラスについた水滴で指先を淡く湿らせた周防が小首を傾げるようにして斜向かいにいる安芸に尋ねてきた。 「ち、違います!」 普段は「安芸刑事」と呼ぶ周防に「安芸君」と呼ばれて安芸は勃起しませんようにと心の中で南無阿弥陀仏と唱えた。 周防はいつも自分の前だと挙動不審な部下にすまなさそうに笑いかけた。 部下二名がスーツ上を脱いで緩めたネクタイ姿でいるのに対し、周防はどれもきっちり着用したまま、まるで鉄壁の鎧さながらにダークグレーで整然と身を固めていた。 「面白みに欠けた上司で気を遣わせて、すみません、安芸君」 「こうなったら飲んで飲ませて無礼講に持ってけ、安芸」 「えッ、のッ、のんでのませてッ?」 「主任、次は何にします? 焼酎いっときます?」 「お任せします」 「先輩方ぁ、もう飲めないですよ~」 「飲ませてねぇぞ、お前が勝手にハイボール十杯連発したんだろうが」 「主任はどうします? あれ、主任?」 「……あ、ウーロン茶をお願いします」 「っていうことで、いいな、安芸?」 「はぁい!わたくしぃ、○○署刑事課捜査第一係安芸巡査部長ぉ、この命続く限り任務遂行致しまぁす!」 「大丈夫か、こいつ」 「いつものことだろ」 「まぁそうだな」

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