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美ボイス刑事さん、いらっしゃあい!-3
元より狂酔の過ちとして及んだ禁忌。
「あ……ッはぁ……ッ!」
虚しい?淋しい?つらい?
とんでもない。
「あぁぁあ……ッ周防、さぁん……ッ」
周防に抉じ開けられ、突き上げられて、安芸は媚びた悲鳴を上げる。
周防は笑いかける。
鉄壁にも等しいスーツ上を脱ぎ、ワイシャツにチョッキ姿で、さらに髪をはらはらと乱して。
周防さんとセックスしてる。
周防さんのペニスで突かれてる。
奥まで、激しく、じっくり。
おかしくなる。
「君はずっと私とこうなりたかったのでしょう?」
おもむろに上体を倒した周防に耳元で囁かれた。
艶やかに色めく声音が安芸の鼓膜を嬲る。
「違いますか、安芸君……?」
戦慄を覚えるくらいの美ボイスで魘される体に熱く脈打つ隆起が何度も抽挿される。
「……こんなに濡らして」
見惚れて止まない五指が安芸のペニスをゆっくり搾るように上下した。
肌蹴たワイシャツ姿の安芸は腹を波打たせ、行き場のない両手をもどかしげにシーツ上で悶えさせる。
最奥を突かれながら先走りに濡れる先端を集中的にしごかれると、もう我慢できずに、安芸は周防に縋りついた。
「あ、ぁぁ……ッ!周防さッ、周防さぁんッ……!」
上司ということも忘れて無心でしがみつく。
仮初の交わりだとわかっていながら心から欲情する。
「このままいいですよ……? 安芸君……?」
全力で縋りついてくる安芸の耳元で周防が許してやれば部下は子供みたいに何度もコクコク頷いて。
周防のモノを後孔奥できつく抱擁しながら放埓に射精した。
このところ忙しく、久し振りということもあり、そして相手は周防だ。
達したばかりのペニスをグチグチとしごけば溜まっていた白濁が面白いくらい噴き零れてきた。
真っ赤になった安芸は可哀想なくらいブルブル震え、駄々をこねるように首を左右に振り、周防の服に爪を立てた。
「ゃ……ッだめ、です……ッいったばかりなのに、そんなしちゃ……ッや……だ」
溢れた涙がこめかみへスゥッと伝い落ちた。
「安芸君」
「はぁ……ッ周防さぁん……」
「お願いがあります」
全身を微痙攣させている安芸の鼓膜に周防は囁きかけた。
穢れなき聖女が耳にしたならば身籠りかねない台詞を。
「……、……、いいですか?」
美ボイスだけで軽く達してしまった安芸は、コクンと、乙女の如く頷いた……。
あれは一夜限りの夢だ。
そう。
極上の夜は終わりを迎えてありふれたツマラナイ朝がくる。
そこにあの人はきっともういない……。
「おはようございます、安芸君」
「あ、あれ……周防さん……うわ、美味しそう」
「冷蔵庫のものをお借りして作ってみました、介抱してもらったお礼です」
出来立ての朝食が用意されたテーブルを前に感動している安芸に、周防は、言う。
「昨日は飲み過ぎてしまって」
「……」
「何も覚えていないんです」
周防さんは本当はどんな人なんだろう。
綺麗な姿かたち、上品なスーツ。
その鉄壁の向こうにはどんな本性が隠れているんだろう。
「俺もです、主任」
開放された窓辺、レースカーテン越しに降り注ぐ眩しい日差しを背にして女神の如く美しく、でもどこか堕落の味わいを含ませて、周防は微笑んだ。
あ。
俺、またこの人に恋をした。
「今日は主任も非番なんだな」
「大丈夫かねぇ、そんな飲んだかねぇ」
「おいおい、周防と飲みに行ったのか、君ら」
「「係長、おはようございます」」
「あの酒豪ぶりは語り草モノだぞ、何せ新人時代に名うての上戸連中潰しまくったからなぁ」
「「そうなんすか?」」
まぁ寄る年波には勝てないのだろうと、大した疑問も持たず、安芸の先輩刑事二名はさくさく報告書作成を再開させた。
安芸が周防の鉄壁を全て打ち崩す日はいつになるだろう。
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