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美ボイス刑事さん、いらっしゃあい!-5

二十代で隠れゲイの安芸刑事は。 四十路バツイチ色白美中年の周防刑事に実のところ首っ丈だ。 しかし所詮叶わぬ恋。 『君はずっと私とこうなりたかったのでしょう?』 想い人とベッドを共にしたのは酒に酔って見た一夜の夢、そう割り切って、それ以上夢見ぬように二度目の夜は諦めて。 『昨日は飲み過ぎてしまって何も覚えていないんです』 募る恋心は片想いとして胸の内に留めた。 そう、周防さんには何も望まない。 恋していられるだけでいい。 もしも桜に声が授けられたら、きっと、あんな声だ……。 「早くお酌しろ、安芸、ビールが温くなんだろぉが」 「ちょっと待ってくださいよ、まずは係長でしょ」 「僕ぁ最後でいいよ、シバちゃんを肴にのんびり一杯やるつもりだから」 「係長、前から思ってたんすけど。どうして安芸のことシバちゃんって呼んで?」 「シバ犬みたいだから」 「う……っわぉーーーんっっ」 「安芸シバが吠えたぞ」 そこは川沿いに店を構える割烹店三階のゆったりした個室。 惜しみない花弁で清流を彩る川桜が窓辺から見渡せ、開花時期は花見客であっという間に予約が埋まる。 今日は安芸が所属する第一係内輪のお花見飲み会だった。 いわば身内の集まり、形式張っていない、無礼講、どんちゃん騒ぎも可。 だから。 「男モンの制服よりセーラー服が似合うたぁ、野郎失格だぞ、安芸」 女装しようと咎められる心配もないのウフフ……って、別に俺が好き好んでセーラー服着たわけじゃない、先輩らに余興で着せられただけ。 「いつ脱いでいいんですか、コレ」 「そうだな、桜が散る頃までか」 「コレ着て事件捜査しろってですか」 「シバちゃん、おかわり」 「はいっ、只今!」 「安芸シバ、一気」 「あーーーもーーーそれじゃあキンキンに冷えたのイタダキマス!」 「おい、それ俺の」 「ぷはーーー!」 今日、周防さんは来ていない。 だからセーラー服着用も渋々だけど受け入れた、周防さんがいたら……着れないよ、恥ずかしいもん。 「そっちも貸せバカヤロー、隠しやがって、それでもタマついてんのかぁ」 「もう酔ってんぞ、安芸シバのやつ」 「酔ってねぇよ!」 「それもそれで問題アリだぞ、おい、瓶ビール返せ」 「おーれーの!!」 この場で最年長の係長がゆったり飲む傍ら、先輩刑事らとぎゃあぎゃあじゃれ合う安芸だったが。 「遅れてすみません」 スラリと襖が開かれたかと思えば周防警部補が顔を覗かせて……一気に酔いが醒めた。 「あれ、主任、今日来れなかったんじゃあ」 「いえいえ、昨日、僕のところに話があってねぇ。本来の予定がフイになったからって」 「主任にドタキャンかますなんて、どんだけイイ女なんすか」 鉄の鎧ならぬダークグレーのスーツ一式を整然と身に纏った周防は微苦笑した。 「失礼かと思いましたが係長に快く受け入れて頂いて……」 安芸と周防の目が合った。 穴があったら入りたいと、瓶ビールを抱いた安芸は思った。 周防さんのことだ。 きっと呆れ果ててるに違いない。 タバコや酒の臭気を洗うような周防フレグランスにときめきつつも、安芸は、決して柔じゃないしっかりした骨格に夏物セーラー服を引っ提げた自分を恥じて、係長の向かい側に腰を下ろした想い人を意識しないようにするため。 しこたま呑んだ。 「ひっく……もう呑めまへぇん……」 「ハイボール二十連発しやがった、安芸シバ」 「安芸シバ?」 「あ、係長がシバちゃんって呼ぶっしょ、あれ、安芸が柴犬みてぇだからって」 「ああ、なるほど」 「今日は主任平気なんっすね、前来たときは潰れてましたよね」 「お酒にも相性がありますから。やっぱり清酒が口に合うようです」 「せんぱぁ~い」 「スカート捲れてんぞ」 「春の陽気にまんまと浮かれたねぇ、シバちゃん」

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