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おれってあなたに跪きたいの/真面目眼鏡司法書士×狂信えろ青少年
少し頭の中を整理したい。
「ん……」
隣で寝ているこの青少年は誰だ。
どうして二人とも素っ裸なんだ。
目覚めた瞬間からしているこの頭痛の原因は何だ。
何とも妖しげダークなインテリアが目立つマンションのワンルームで目覚めた、合同事務所に籍をおく司法書士の宗方惣二 (37)が。
ロココ調ベッドの上で産まれたままの姿に唯一眼鏡だけ身につけて固まっていたら。
「ん」
隣で寝ていた青少年が目を覚ました。
強めのホワイトアッシュはストレート髪。
インドアぶりが窺える真っ白肌。
両耳には複数のピアス。
瞼の下に現れたるは不機嫌げな吊り目。
固まっている宗方の視線の先で剣呑な眼差しを紡いだかと思えば、ジロリ、明らかに年上である男を堂々と睨んできた。
怒っている。
彼は明らかに俺に怒りの感情を抱いている。
思い出せ。
昨日何があった、真っ黒なカーテンでわかりづらいが今は朝のようだ、昨日は金曜日、金曜の夜に何があった……駄目だ、思い出せない。
それならもっと前ならどうだ。
朝から順序立てて思い出してみれば自ずと蘇るはず……あ。
そうか、昨日の朝は。
『遅ればせながらご報告です、この度結婚することとなりました』
松ノ森さんの……結婚の報告……か。
俺より年上で四十代前半、それまで浮いた話を聞いたことがなく、外見も性格も特に問題ないのに、もしかして同類なのでは……と勝手に思い込んでいた。
尊敬できる先輩司法書士で、身だしなみにも気を遣っていて、落ち着いた柔らかな物腰がとても……好きだった、恋をしていた、あの人は正に俺の理想だったんだ。
『過払い計算、間違えてますよ』
淡い恋心は玉砕、そのショックで凡ミス連発、裁判所に出向いて計算書の訂正、法務局にネット申請を忘れていた登記事項証明、書類に印鑑の押し忘れなどなど……。
「もしかして昨日のこと忘れてんの?」
回想に身を委ねていた宗方は我に返った。
腹這いになった青少年がシーツに片頬杖を突いて相変わらずこちらを睨んでいた。
……昨日の夜は一人でホテルのバーに飲みに出かけた、今さら気づいたが自分がとてつもなく酒臭い、喫わないタバコの匂いもする。
……恐らく深酒したんだろう、バーの後の記憶が抜け落ちている。
この状況からして。
俺はこの青少年と……至ったのか?
外見で判断するのも申し訳ないが、これまでの私生活において関わりのなかった人種だろう相手と酔い潰れてセックスしたのか?
「……すまない」
「は?」
「悪かった。君の言う通りだ。覚えていない」
「どうして謝んの?」
あっけらかんと問われて宗方は呆気にとられた。
「夜のアンタは獣な神父みたいだったけど」
睨まれていると思っていた宗方、だが実際青少年は目つきが悪いだけで睨んでいるわけじゃなかった。
「朝のアンタはフツーの神父さん」
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