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NO 絶倫, NO 淫乱.-4
次の週末。
「いつも夜に会ってばかりだから。たまにはお昼に会ってランチでも食べませんか?」
琉聖にそう誘われて気が乗らないものの彼が予約していたイタリアンレストランへ真希人はやってきた。
「ワイン、飲みます?」
「君は未成年でしょう」
「もちろん僕は飲みません」
永生さんがワイン飲むの、向かい側でじっくり鑑賞したいと思ったんです。
「……ブラッドオレンジジュースをお願いします」
若い女性やカップルが客層を占める店内、カーテンで仕切られた半個室的な空間、テーブルを挟んで私服姿の琉聖と向かい合う。
何をしているんだろうか、私は。
十歳近く年下の高校生と昼食を共にするなんて究極な時間の無駄遣いじゃないのか。
「そういえば永生さん、LINE教えてもらえます?」
「していません」
「え? 本当に?」
「特に必要性を感じないのでしていません」
「じゃあ僕がインストールしてあげます」
件の笑顔で片手を差し出してきた琉聖に真希人は眉根を寄せた。
「ですから必要性が、」
「永生さんとは頻繁に連絡とりたいんです。駄目ですか……?」
「……どうぞご勝手に」
足元のカゴに入れていたバッグから携帯を取り出して渡すと琉聖は手慣れた手つきで操作を始めた。
そんな矢先に。
琉聖の携帯が鳴り始めた。
「すみません、ちょっと失礼しますね」
向かい側で電話に出て琉聖は話し始めた。
一分ほどの通話であったが否応なしに聞かされたその内容に真希人は耳を疑った。
「すみませんでした」
「……今の相手は」
自分の携帯を隣のイスに置くと、琉聖は、向かい側で凍りつきかけている真希人に彼の携帯を返して何のためらいもなく答えた。
「彼女です」
「……」
「女子高に通っていて。最近、受験の不安とか悩み事が多いみたいで。よくかかってくるんです」
「……君に恋人がいるなんて……初耳ですね」
声が震えそうになるのを寸でのところで堪えている真希人に対し、いつも通り、運ばれてきた食事をテーブルマナーの行き届いた所作で楽しみながら琉聖は言うのだ。
「永生さんに聞かれたことがなかったので」
スープに口をつけた真希人だが。
何の味もしなかった。
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