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甘い窒息をあなたにあげる/二枚目既婚教授×美人助手
■マニアックプレイあり(強引窒息プレイ/イラマ)
もう限界かもしれない。
瀬戸瑞穂 は思う。
「きょ、ぅ、じゅ……ッ」
軽薄なホテルの一室に微かな断末魔。
首の骨の凹凸に絡みつく五指。
呼吸が奪われて。
意識が霞む。
「も……ッむり、です……ッ」
何人の男女が営んだかもわからないベッドに押し倒された瑞穂は希 う。
触れられずに乱されることもなかった服が悶える余り無数の皺を刻んでいく。
「も、やめ……ッ……ッ……ッ」
瑞穂の首を両手で絞めていた男は微笑んだ。
「君の苦痛を愛してる、瑞穂」
男の名前は白倉 、私立大医学部の法医学教室で解剖鑑定に日々尽力する四十二歳の教授であった。
「白倉教授、さっき海保の仁岡さんいらっしゃって、このお菓子、先月の検死のお礼だそうです」
「そんな。わざわざご丁寧に」
「開けてもいいですか?」
「どうぞ」
教授室と隣接している法医事務室、事務員が豪快にびりびりと包装を破り、白倉は気にするでもなく給湯コーナーのある休憩室へ自分でコーヒーを淹れにいく。
瑞穂は法医学教室が有する実験室の一つで試料の染色・包埋・解剖室補助業務を担当する二十四歳の助手であった。
白衣に身を包み、試薬に囲まれて、日々一人で淡々と手間のかかる作業をこなしている。
二人の関係は当然誰も知らない。
「瀬戸君も来ればよかったのに」
昼休憩、法医の面々が休憩室に集まって昼食をとっている中、あまり会話に加わらずに学生のそばで食事をとっていた瑞穂は顔を上げた。
「え……?」
「先週の日曜日! 教授のおうち!」
「あ……日曜は用事があって」
「一回くらい来てみたら? 奥様のローストビーフ、絶品だから」
法医学実習に参加している学生が「行きたい」と言い出せば「学生は勉学に励め」と激を飛ばす女性事務員。
「瀬戸君を連れてきてくれるならいつでもどうぞ」
長テーブルの中心で白倉がにこやかに笑う。
助教授や他の助手も和気藹々と和む傍ら、瑞穂は、端整に仕上がった顔に出来損ないの笑みを張りつかせる。
今日こそ。今日こそは。
「んんぅぅんぅ……ッッ」
その部屋のメインであるベッドへ導かれることもなく。
「瑞穂は本当に綺麗だね」
ドアの真ん前で佇んだ白倉は微笑んだ。
緩やかにウェーブがかった髪、たいていの者が好印象を抱く柔らかな物腰に、感情起伏によるヒビを許さない完成されたマスク。
跪いた瑞穂の癖のない髪を鷲掴みにし、喉口限界までペニスを押し込んで呼吸を制限しながら。
彼は優しげに囁く。
「本当、いつかおいで、瑞穂? 歓迎するよ?」
涙の溢れる双眸で瑞穂は白倉を見上げた。
苦しい……。
口角が切れて出血したみたいだ……。
血の味のする性器で蓋をされて喉が詰まって……。
瑞穂の口の奥でかたちを変えていった白倉の肉杭。
硬度の増した昂ぶりが怯える舌を嬲るように行き来する。
一切の躊躇もなしに狭まる咽喉を満遍なく蹂躙する。
「んぶ、ぅ……ッんぐぅッッ」
涙と唾液と嗚咽が止まらない瑞穂。
微笑を続ける白倉。
触り心地のいい髪を五指に絡ませてきつく握りしめる。
「ッッ、ッッ!!」
一段と脈打ったかと思えば精液を迸らせたペニスに瑞穂は目を見開かせた。
白倉はもう片方の手も彼の頭に添え、両手で固定して嚥下を強制する。
頭皮に爪を立てて。
「んぶッううう……ッんーーーー……ッッ」
最後の一滴まで射精を完了させた白倉は瑞穂の髪を掴む両手はそのまま、長々と口内を占領していたペニスを引き抜いた。
瑞穂は咳き込んだ。
精液の混じった唾で口元を一気に濡らし、過度な呼吸を繰り返して、いた、ら、
「瑞穂、ほら、おかわりだよ」
芯を失わずに硬さを保っていた肉杭で報いの如く再び栓をされた。
「瀬戸君、そのシャツ、暑くない?」
「……冷え症だから丁度いいです」
夏場でも白衣下に立ち襟のシャツを着込むことのある瑞穂は常備していた回答で女性事務員の質問をやり過ごす。
ゆうべの痕を他人に見られるわけにはいかない。
支配されて余すことなく服従したひと時の証を。
教授と関係が始まったのは俺がこの実験室に来てすぐ、だった。
歓迎会の後に。
『僕だけが知る瀬戸君、そんなものを求めたら我侭かな』
薬指のリングは視界に入っていた。
それを意識している時点ですでに彼に惹かれている自分を痛感した。
「カナダのトロント、学会で一週間ですかぁ、いいですねぇ」
「総務に日程表提出しないといけないんだが、ああいう事務的で細々した作業、どうも苦手でね」
「教授、おみやげお願いしますね! 甘過ぎないチョコがいいなぁ、瀬戸君は何がいい?」
「ッ……ぼくは別に……」
「まだ大丈夫だよ、瑞穂」
けばけばしい浴室に無数の水飛沫が煌めく。
「まだ大丈夫。まだ我慢できるよね」
白倉の優しい囁きが激しい水音の狭間にゆっくり溶けていく。
腕捲りされた利き手は浴槽に真っ直ぐ伸びている。
水面から突き出された瑞穂の両手。
息苦しさに延々ともがく五指。
「大丈夫だよ、僕がいるから、瑞穂」
悶絶に対し微笑みを返して白倉は一切手加減せずに溺死の数歩手前まで瑞穂をいざなう。
もうだめだ。
体に異変が起こってる。
日中でも呼吸がきつくなったり、眩暈、立ち眩みに襲われることもある。
扱いに注意が必要なホルマリン作業をしている際は尚更だ、拍車がかかる、前にはなかった吐き気を覚えることだって。
「瀬戸君、今日は十体分の切り出しをする予定だから、準備の方をよろしく」
「……はい、教授」
辞めようか、この仕事を。
教授との関係を断つためにはそこまでしないと。
このまま彼のそばにいたら俺は。
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