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赤信号は止まりましょう/屑系チャラ生徒×隠れ鬼畜先生
高校三年生になるはずが留年して二年生を続けている真野逢良 は成績と同様に生活態度にも問題があった。
「真野クン、その髪どこで染めてるの?」
年下のクラスメート男子に問われた逢良はスマホをいじりながら「ウチで」と答える。
「セルフでそんなキレーに染まる?」
「ウチ、美容室。オヤジにしてもらってる」
「えー」
「セィラも染めてほしいっ」
「ウチもー」
ちなみに現在授業中である。
担任である二十代の樹里 が受け持つ古典、居眠りしている生徒は多数、だらけたムードが漂っていた。
黒髪に黒縁眼鏡、いつも変わり映えしない地味なネクタイにワイシャツ、お決まりな濃紺セーターの樹里は注意もせずに淡々と授業を続ける。
「次、真野君、読んでください」
「あー、教科書忘れたんで俺はパスで」
「……宮本君、お願いします」
まっきんきんの髪にピアス、顔もそれなりに甘イケメンで、これでもかと緩められたネクタイ、前全開のブレザー。
わざわざ「ふわー」と声を立てて欠伸連発、たいていの授業を寝るかスマホいじりで過ごす。
まだ午前中、まだ11時かよ、学校だる、昼になったら友達とゴハンだけ食べて帰ろっかな。
また堂々と「ふわー」した逢良を樹里は眼鏡越しにちらりと見つめ、た。
「君みたいな生徒、嫌いじゃないですよ、真野君」
土曜日の夜。
同中だった友達と遊びに行ったクラブで逢良は担任の樹里を見かけた。
最初は別人だと思った。
眼鏡、服、雰囲気、教室前で分厚い教科書片手に淡々と授業を進めていた担任と何もかもが違っていて。
確かに樹里だった。
ダサ担任の変身ぶりに興味を引かれ、うるさい音楽、うるさい客で満たされた地下フロア、目だけで追うのは難しく近寄って観察していたら。
逢良の視線の先で樹里はキスをした。
れっきとしたディープキスというやつを一人の女と。
人目を気にしてトイレへ、ではなく、フロアの壁際で。
そのまま本番に行くのではと危ぶむくらいに盛りのついた勢いで。
樹里センセー、マジですか。
そして樹里はキスをやめ、今にも崩れ落ちそうな女を壁際に残して。
曲に合わせるでもなく無心で揺れ動く客の狭間を練って逢良の目の前へとやってきた。
「こんばんは、真野君」
その声色は教室と同じだった。
樹里は一戸建てに一人で暮らしていた。
親の持ち家だとかで、ごく普通の、古くも新しくもない二階建ての家だった。
「私の家に遊びにきませんか?」
逢良は誘いに乗った。
教室とまるで違う樹里に惹きつけられて、担任だからと警戒心も持たずに、のこのことついてきた。
「センセー、アソコよく行くの?」
「いいえ。初めてです」
「あの美人なコ、カノジョ?」
「彼女とも初対面です、面識はありません」
「え? じゃ、その場のノリであんな? センセー、そーいう人だったの? なんで学校ではあんなダサくしてんの? なんかイミあんの?」
「真野君はこの部屋を使ってください」
通された二階の部屋。
あまりにも何もなくて逢良は驚いた。
あるのは、窓辺を覆うくすんだ赤いカーテンと保健室に置いてあるようなパイプベッドだけ。
一般家庭では目にしない異様な空間だった。
「コレ、センセーの趣味? やばくない?」
「お風呂はどうします」
「あ、うん、くさいけど疲れたし、明日の朝にしよっかな」
「わかりました」
どさっっっ
「え」
剥き出しのマットレスに押し倒されて逢良はまたびっくりした。
178センチの生徒にすぐに乗っかってきた174センチの教師。
驚きの連続である。
「センセ?」
カラコン入りの双眸を瞬かせる逢良に樹里は端整な唇を三日月形に歪めてみせた。
「君みたいな生徒、嫌いじゃないですよ、真野君」
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