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甘いあまいアナタ/美形+男前×元担任/不倫

「ねぇ、先生。男同士の恋人ってどうして少ないの?」 夕日が差し込む放課後の教室、まだあどけない二人の生徒から寄越された質問は意外にも複雑な内容だった。 二人の担任である里見(さとみ)は涼しげな微笑に動揺の色を走らせた。 「ねぇ、何で?」 「男の人と女の人はいっぱいいるのに。結婚だって、いっぱいしてる」 小学校四年生の男子生徒二人は無垢なる瞳でじっと里見を見上げ、答えを求めてきた。 その二人はとても仲がよかった。 グループには属さず、たいてい二人で行動し、一人が欠席していれば同級生の輪の中に入るのではなく、担任の里見に寄ってくるような子供達だった。 里見は微笑を保ちながらも頭の中では周章し、とりあえず、答えた。 「男同士だと……子供が産まれないからかな」 「じゃあ男の人と女の人は結婚したら絶対子供を産むの?」 それは違う。 人それぞれだ。 里見はその場しのぎで適当な回答を出した自分を恥じた。 「男同士で一緒にいることって普通じゃないの?」 「ねぇ、先生?」 里見は、しゃがみ込むと二人の目の高さに視線を合わせた。 「普通じゃないって言う人もいるかもしれない。だけど」 普通のことが全ていいわけじゃない。 普通じゃないことが全て悪いわけじゃない。 「男女でも、女性同士でも、男性同士でも。お互いを信じ合って、強い絆を持つこと。僕は素晴らしい素敵なことだと思うよ」 里見が笑いかけると、夕日に照らされる中、二人もつられたように笑顔を浮かべた。 「里見センセェ、お邪魔しまっす」 「ケーキ買ってきたよ」 玄関ドアを開けると二人の青年が笑顔で立っていた。 里見も微笑み、ドアを大きく開いて自宅の中へ二人を招く。 「今日、すっげぇ天気いいよね。千春さんと桃香ちゃん連れてピクニックでも行っちゃう?」 金髪に近い派手な色合いの長い髪を緩く縛り、両耳に合計七つのピアス、指にはシルバーリングをはめた翔吾(しょうご)は天気がいいというだけでハイテンションになっている。 「桃香ちゃんの好きなモンブラン、売り切れてたから、代わりに苺のショートケーキ買ってきたんだけど。食べれるかな。俺、後でみんなに紅茶淹れるよ」 Vネックの黒いシャツから伸びた二の腕にはトライバルのタトゥー、黒髪に黒のデニム、まさに黒ずくめで顎に無精ヒゲを生やした(つかさ)は色とりどりのケーキが入った箱を里見に掲げてみせた。 二人は里見の元教え子だった。 小学校を卒業しても度々里見に会いに学校を訪れ、食事をしたり、映画を見に行ったりし、十九歳になった今でも二人は元担任に懐いている。 里見は現在三十三歳。 結婚して子供も産まれ、慎ましく穏やかな人生を家族三人で送っている。 翔吾と司は里見が家庭を持ってからも、こうして、たまの週末会いにやってきた。 「……あれ?」 リビングにやってきた二人は、いつもならにこやかに出迎えてくれる里見の妻と、駆け寄ってくる娘の姿がないことにキョトンとした。 「ごめん。千春のお母さんが腰を痛めてね。桃香も連れてお見舞いにいったんだ」 「え、そうなの? センセェは行かなくてよかったの?」 「俺達、出直そうか」 「いや、僕が行ってもあちらに気を遣わせてしまうし、そこまで深刻ではないから。君達との約束もあったしね」 翔吾の言う通り、天気のいい土曜日の昼下がりだった。 いつものように楽しく、他愛ない、ありふれた週末の時間が過ぎていくはずだった。 我知らず引き鉄を引いたのは里見自身だった。 「センセェ、ついてるよ」 ダイニングテーブルで隣に座っていた翔吾に言われ、里見は、フォークを止めた。 食べていたのは苺のショートケーキだった。 昔から甘いものが好きで、それを知る二人はいつも手土産にケーキやシュークリームなどのお菓子を買ってきた。 普段なら紙ナプキンやティッシュでさっと拭うが、そばに見当たらず、里見は指の腹で口元についていた生クリームを掬うと、特に何も考えず、舌で舐め取った。 「……」 妙な沈黙が流れ始めたのはそれからだった。 庭先から鳥のさえずりが鮮明に聞こえる程の静寂に里見は首を傾げる。 翔吾は自分の手元を、里見の向かい側に座る司はレースカーテンに閉ざされた窓辺を見ている。 静寂を破ったのは翔吾だった。 「あ…俺、もうダメかも」 何が駄目なのだろうと聞き返す前に、里見は、翔吾に抱き着かれていた。 「翔吾君?」 自分に抱き着き、胸元に顔を埋めている翔吾に、里見はもちろん戸惑った。 一体どうしたのだろうと、向かい側の司に視線で問いかけてみたが、司は司で、どこか悲しそうな目をして里見を見ている。 「翔吾君、どうかしたの。何か嫌なことでもあったの」 小学校時代に二人を教えていたからか。 どれだけ外見が大人になろうと、ファッションが過激になろうと、二人に接する際の里見の態度はいつだって子供に対するものだった。 「泣いてるの?」 翔吾は顔を上げた。 中性的な綺麗な顔立ちをした彼は、やはり頬に一筋の涙を流していた。 翔吾は里見にキスをした。

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