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甘いあまいアナタ-2

里見は驚いた。 翔吾にキスされて、ただでさえ動揺していたというのに、後ろから司に抱き締められ、彼もまた、口づけてきたのだ。 緩んでいた口元を犬のように舐め上げ、うっすら開く唇の狭間を通過した舌先が、すでに唾液で溢れていた口腔を頻りに掻き回す。 濡れた音色が鼓膜にこびりつく。 求めてくる二人の舌尖に里見の舌は容易に囚われて、淫らな絡まりを許さざるをえなかった。 「ふ……」 動揺しながらも、里見は、交互に翔吾と司を見やった。 二人とも薄目は開けていたが、熱病に魘されているような、危うい目つきをしていた。 こんな二人、初めて見る。 僕が何か悪いことでもしてしまったのだろうか。 それに傷ついて、二人は、僕に怒っているのだろうか? 優しかった二人の急な変貌は、自分に何か非があったせいなのでは、と里見は不安に思った。 二人を邪険にはできず、抵抗するのも憚られて、受け身の体勢でい続けた。 太腿に置かれていた翔吾の手が徐々に内側の奥へと這ってきた。 鎖骨を抱いていた司の手がシャツのボタンをいくつか外して、直接、肌を撫でてきた。 「センセイ」 やっと翔吾が唇を離した。 だが、まだ司がキスを続けていて、里見は横目で泣いていた彼を窺った。 涙はもう乾いている。 しかし、やはりまだ眉根を寄せて悲しそうにしていた。 「センセイ、センセイ」 自分を呼ぶ姿は小学生の頃と重なる。 こんな状況で、里見は、つい微笑した。 手を伸ばして三日月の色をした髪を撫でる。 すると翔吾は二重の双眸を一瞬見開かせ、泣き笑いのような表情となった。 うん…翔吾君は笑っていた方がいいよ。 泣いたら女の子みたいに綺麗だけれど、やっぱり笑っていてほしい。 僕が何か悪いことをしてしまったんだよね、ごめんね。 「センセェ」 窓辺のソファに里見を座らせて、翔吾と司は、やはり言葉もなしにその白い体へ手を伸ばしてきた。 シャツのボタンを全て外し、外気に曝された肩に、里見の背中を抱き止めた司はキスを落とす。 首筋にも、キスを。痕が残らないよう、軽く、そっと。 正面に回った翔吾は迷うことなく胸の突端へ唇を被せてきた。 「ん」 突起が傾く程に平らにした舌で舐り、上下の唇で挟み込んでは緩々と摩擦する。 時に強めに啜り上げて、啄ばみ、細やかな舌遣いで小さな尖りを優しく蹂躙する。 甘い震えに貫かれてゾクゾクと背筋が戦慄いた。 司のキスは耳元にまで及んでいて、はしたない音色がダイレクトに伝わってきた。 「センセイ……甘くておいしい」 「食べれるんなら骨まで残さないよ、先生」 感じてはならないものが押し寄せてくる。 翔吾の掌が股座に伸びて、衣服の内に潜められた昂ぶりを一撫でされると、それはさらに熱を増した。 「翔吾君」 露骨に舌なめずりした翔吾の獣じみたその振舞が、里見には見慣れないもので、彼は涼しげな眼を瞬かせた。 早急な手つきで取り出されたペニスは力み始めで僅かに頭を擡げている。 はしたない自分の有様を思い知らされて、里見は、顔を背けた。 「先生?」 背後にいる司が肩に顎をくっつけて覗き込んでくる。 里見は、何も言えず、黒目がちの双眸を見つめた。 「……ん……」 キスをされる。深く、長く。 溶け合いたいと謂わんばかりに舌先が擦り寄ってくる。 「つか、さ……く……ん」 「先生……」 吐息まで貪られて里見は呻吟した。 立て続く濃密な口づけに眩暈がする。 無意識に自分の唇を開閉させて彼の感触を味わい、下顎をしとどに濡らし、注がれる唾液を嚥下した。 が、翔吾にペニスを握られた瞬間、里見は司と繋げていた舌先を解いて首を窄めた。 「あ……う」 翔吾の指にはごつごつとしたシルバーリングがいくつか嵌められていた。 撫で擦られる度に冷ややかなリングは異様な感覚を与え、痛みを及ぼすくらいであった。 「……く」 胸の突起にむしゃぶりつきながらペニスを扱く翔吾は里見が痛がっているのにまるで気づいていない。 「……翔吾、お前、指輪」 「えっ?」 「痛がってる、先生」 「あっ」 司に言われ、翔吾は慌ててリングを全部外したのだった。 最初に里見に入ってきたのは翔吾だった。 濡らした方がいいと、司にフェラチオされた後、唾液で滑るペニスをぐ、と後孔に押しつけ、窮屈な内壁に引っ掛かりつつも腰を進めてくる。 「あ……センセ……すげ……狭、い……」 汗ばんだ翔吾は窓辺の日の下でうっとりと笑った。 ソファの上、司にもたれかかった里見は悲鳴を殺して身悶える。 何度か腰をゆっくりと前後させ、隆起のかたちを覚えた内壁が僅かに拡がりを見せ始めると、前屈みになった翔梧は無心になって打ちつけた。 「センセェ……っあ……イイよ……俺、こんなの初めて……」 律動する翔吾に揺さぶられ、里見は、自分の腕を噛んだ。 それを見下ろしていた司は、すかさず細腕を退かすと自分の指を浅く含ませた。 「あ、もぉ、ダメ、イキそ、イク……ッ」 翔吾はうわ言のように声を洩らして里見の中に精を放った。 「あ……っはぁ……」 次に潜り込んできた司のペニスは翔吾が放った精液を絡ませて肉壁を巧みに擦り上げてきた。 「あっ…あっ…」 里見の堪えきれなかった嬌声が昼下がりのリビングに響き渡る。 肉を穿つ際に鳴る淫らな音色も、低く上擦る司の呼吸も、一つになって……。 最後に、もう一度、翔吾が後ろから里見を貫いてきた。 俯いて突き動かされていた里見は、ふと顎を持ち上げられて、フロアに座り込んでいた司にキスをされた。 病的な熱を孕んだ喘ぎと舌を交わらせ、切なげに喉奥で声を詰まらせ、我を忘れて口づけに耽った。 「つかさ、くん……っ」 がむしゃらに腰を動かす翔吾の熱を体内で痛感しつつ、里見は、司に縋った。 「先生、気持ちいい……?」 繋げた視線で里見が答えると司はそっと笑った。 「そう……よかった……」 俺達は先生には幸せになってほしいって、ずっと願ってた。 だけど先生が幸せになればなる程、俺達は不幸せになった。 嬉しかったけれど、楽しかったけれど、でも。 もうこの家には来ないよ。 さようなら、先生。 流れる音楽に合わせてフロアにいる誰もが思い思いに踊っていた。 ノイズにも等しい爆音は危うげで混沌としていて、狂気の沙汰にも近い。 昼を忘れて夜に溺れる漂流者達を後ろに、翔吾と司は、寄せては返す喧騒をカウンターでぼんやり聞き流していた。 「もうセンセェとケーキ食えないなんて、嘘みたい」 「先生がシュークリーム食べるの、本当に可愛かったよな」 「もう頭撫でてもらえないなんて信じらんない」 「先生……おいしかったな」 二人はずっと唇を閉ざしていた。 会話など、頭の芯までぐらつかせる音の中ではとてもじゃないが成立しない。 だが互いに何を思っているか、何を語りたいのか、十分過ぎる程にわかっていた。 カウンターに置かれたオレンジジュースは氷が溶けてとっくに薄味と化していた。 ふと、肩を叩かれた。 司は振り返るのも億劫で無視を決め込んだ。 しかし隣に座る翔吾の表情を見、何事かと思い、振り返ると。 「翔吾君、司君」 里見がそこにいた。 けたたましい爆音の最中にて、その呼び声は二人の鼓膜にはっきりと刻まれた。 一度、二人に連れていかれたことのある店だった。 頭を空っぽにしてくれるから好きなんだ、と司が言っていたのを、里見は思い出し、やってきたのだ。 そして今、三人は店の個室トイレの中にいた。 どうして来たのか。 どうしてあんなことをしたのか。 どうして、どうして……。 混沌としたノイズが壁越しに伝わる中、彼等は疑問を抱くのも疎かに無心になってキスを繰り返した。 言葉を挟むのも惜しい気さえした。 ただ、ただ彼等はずっとキスをしていたかった。 夕日がいっぱいに差し込むあの教室で俺達は初めて貴方に恋に落ちたんだ。

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