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SはSを愛す-4

大画面は動物のドキュメンタリー番組を流していた。 肉食動物が草食動物の柔らかそうな喉仏に深々と喰らいつき、息の根を止めようとしている。 草食動物は黒々とした小さな眼を瞬かせて、痙攣しながら、足掻いている。 「もっと嫌がって、憎んで、貶してよ、水月?」 ベッドでワイシャツにネクタイを緩めた比佐が、 両手首をベルトで後ろ手に縛られた全裸の水月の、 高々と掲げさせられた双丘の間に垂らすのは、 コンビニで買ってきたウィスキーだった。 「じゃないと盛り上がらないだろ?」 半分流し、半分水を入れて薄めていた液体を、後孔に瓶口を捻じ込んで直接直腸にも流し入れてくる。 「引っ掻いてばかりいないで致命傷、狙えば?」 どこかはしゃいだ嬉しそうな比佐の声。 急性アルコール中毒発症ぎりぎりのところまで注入して、次に指を突っ込み、蓋をする。 「なぁ、俺だけの駄猫?」 殺意が湧くまでに嫌悪している。 それなのにどうして胸糞悪くなる密会を繰り返す? 陶酔しきった身の内にペニスが激しく打ち込まれた。 水月はシーツを噛んで酩酊する意識を、解れてばらばらになりそうなプライドを手放さないよう、懸命に、我を保つ。 比佐は、そんな水月の抵抗を背中越しにでも十分に感じ取ることができ、満足そうに唇を濡らした。 水月が築く予防線の壁が総崩れになることはない。 決して心を明け渡さず、爪を研ぎ、尖らせて、比佐を拒む。 従順からは程遠い。 堪らないな、と心の内で比佐は舌なめずりした。 濡れた尻をぐっと鷲掴みにすると肉奥で濃厚なピストンを繰り広げた。 「かわいいよ、水月……もっともっとって、ケツ振ったら、いかせてやるよ?」 「……しね……っ」 ほらね。 お前って本当抱き甲斐あるよな、水月? 火照った尻を撫で回して、比佐は、上体を倒した。 肩と膝で肢体を支える水月の背に覆い被さる。 片耳、邪魔な髪をかき上げると唾液を含ませた舌先でなぞった。 「ん……っ」 「いいんだろ、ケツから酒飲むような淫乱だから、お前は」 なぁ、お耳が弱い駄猫ちゃん? 耳殻から孔まで、舐め回し、耳たぶにしゃぶりつく。 律動は忘れずに小まめに突き揺さぶってやりながら、水音を立て、しとどに濡らす。 これくらいで十分だろう。 不意に比佐の律動が弱まった。 全身を紅潮させ、酔いのため感覚に疎くなっている水月は、シーツに突っ伏したまま。 比佐はベッド脇のサイドテーブルに置いていた小さなケースを速やかに手にすると、片手で蓋を開けた。 取り出したのは縫い針。 比佐はそれを水月の耳たぶに突き刺した。 『俺が今度開けてやるから。裁縫道具の針でも可能だろ?』 「ああ、締まる……」 比佐はうっとりと呟いた。 水月が暴れ出したので、悦に入る時間はそう長続きしなかったが。 「こら、大人しくしろ」 縫い針で耳たぶを貫かれたままの水月を上から押さえつけ、比佐は堪えきれずに、笑う。 「ふふっどうだよ、貫通のご感想は?」 ちゃんと酔わせて神経麻痺させて、濡らして、一気にしてやったんだから。 そんなに痛くないだろ? 中、こんなきつくして、むしろいいんだろ? 「なぁ、雌豚以下の水月?」 「し……ね、死ね……っ」 ベルトに縛られた手の指達が引き攣っている。 比佐は笑いながら滴り始めた血を舐め取った。 痛いくらいに気持ちがいい。 気を抜けばいってしまいそうだ。 「外せ、クソ、いますぐ抜けっ……!!」 「ちょ、そんな動くな、って」 酔いのためにろくな力の入らない体を簡単に捩じ伏せ、比佐が次にケースから取り出したのは、ピアス。 「じっとしてないと細胞壊すよ」 それからの作業は実に手慣れていてスムーズなものだった。 縫い針を引き抜くと、 できたばかりの出来損ないのホールに、 棒部分のポストを新たに、 傷口をさらに広げるように、 残酷に突き刺す。 耳たぶの裏から突き出た先に留め具のキャッチをとりつける。 「ほら、完成」 そう告げて腰を数回勢いよく振り立て、比佐は、水月の中で放精した。 「膿んだらどうすんだよ」 比佐は水月の問いかけに首を傾げてみせた。 「お前、もうとっくに膿んでるよね、水月?」 殺意が湧くまでに嫌悪している。 それなのにどうして胸糞悪くなる密会を繰り返す? 度重なる凶行につい凶器を手にしてしまいそうだというのに。 「パパー。らっこさん、かわいい」 「うん、かわいいね。ほら、ご飯の時間」 「ごはん、ぱくぱく、ぱくぱく」 「うん、かわいいね」 土曜日の水族館、らっこの泳ぐ水槽前は餌やりタイムということもあって大いに混雑していた。 「パパー。らっこさん、もう飽きた」 肩車してやっていた我が子の発言に笑って、比佐は、妻と共にその場を離れた。 肩から下ろした一人娘と手を繋いでひんやりとした薄暗い通路を家族三人で歩む。 巨大水槽の前に来ると我が子が足にしがみついてきたので、比佐は小さな頭を撫で、青い光に満ちたガラスの強靭な檻を見上げた。 他の魚達よりも一際目を引く中型の鮫が遊泳する様に見惚れた。 「花梨、こわい」 「うん? 鮫さん、きれいだよ?」 水族館がメインの一つとしている巨大水槽の前にもたくさんの人がいた。 家族連れやカップル、友達同士、団体客、皆、喜びや感嘆などの昂揚感で表情を彩って、水槽を見つめている。 一人、無表情に鮫を目で追う客がいた。 水の中に走る青い光を双眸に反射させ、いつにもまして冷ややかな眼差しを紡いでいる。 Vネックの黒いニットに黒のジーンズ。 癖のないストレートの髪を片耳の後ろにかき上げて、覗くのは、昨日無理矢理つけたばかりのファーストピアス。 それを見つけた比佐は思わず声を立てて笑った。 「パパー?」 膝に顔を埋めたままの我が子にどうしたのかと聞かれて「鮫さんと目が合ったんだよ」と、比佐は答えた。 「お前がストーカー行為に走るような奴だとは思わなかったよ」 バリアフリーの個室トイレで水月の唇を塞ぐ寸前、比佐は、楽しげにそう言った。 今すぐ突き破りたいほどの欲望をキスで誤魔化し、紛らわせる。 ペニスで肉奥を漁るように尖らせた舌先で口腔を虐げる。 欲深く粘膜を蝕んでは唾液を滴らせ、さらに濡らして。 絶えず舌尖を交わらせて不埒な熱を分かち合う。 「口でセックスしたみたい」 顔を離した比佐は名残惜しげに水月の口角を舐め上げると、そう言って、小さく笑った。 「どのぬいぐるみにするか決まっただろうから、もう行くよ」 殺意が湧くまでに嫌悪している。 それなのにどうして胸糞悪くなる密会を繰り返す? 度重なる凶行につい凶器を手にしてしまいそうだというのに。 まぁ、一方的に食われ続けるつもりなんてないけれど。 水月は比佐がそのまま去るのを許さなかった。 取っ手を握りかけていた比佐の向きを乱暴に自分の方へ変える。 通路にいるだろう他の客への警戒も疎かに、背中からドアに叩きつけ、胸倉を引っ掴むと。 その首筋に容赦なく噛みついた。 「うっぁ、おい……っ」 突っ返そうとする両腕に全力で抗う。 柔らかな皮膚へ埋めた歯列に害意を込めて。 本気で食らいつく。 牙剥く獣のように。 「みづき……っ」 つい痛みに歪んだ声を上げ、比佐は、水月の髪を鷲掴みにして何とか我が身から引き剥がした。 「……おま、え」 水月の視界に写ったのは、首筋にくっきり刻まれた、赤く滑る痕跡。 それを確認した水月は舌に纏わりつく血の味を喜んで嚥下した。 「鮫に噛まれたって言えば」 「……」 待ち侘びている家族の元へ帰ればいい、その跡つけて。 「ざまみろ、ばーか」 狂的な熱で肌も眼差しも熱く湿らせ、悦に入った水月はそう囁き、比佐をそこに残して一人去った。 「水月さんって、比佐さんのこと、好き?」 ピアスだらけの梓に問われて水月は黙秘する。 好きか、嫌いか。 愛しているのか、憎んでいるのか。 確かなことは。 誰よりも傷つけてやりたい。 屈服という名の致命傷を、その心臓に。

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