112 / 259
SはSを愛す-6
水月の胸の内に湧き上がっていた最悪の懸念を、最悪な男、比佐は実行に移した。
「クソ、ふざけんな……っぁ、っく……!」
四つん這いにした水月の腰を高く掲げさせると後孔に氷を捩じ込んでくる。
立て続けに二つ。
急激に粘膜が冷やされて否応なしに覚える危うい違和感に水月は呻いた。
「出せ……っ出せよっ」
「心配しないでもなかで溶けるって。まぁ、下手したら凍傷するかもしれないけど」
すぐ溶けるようにしてやるから。
そう言って、色濃い疲労を引き摺る水月にのしかかり、夜通し酷使したにも関わらず浅ましく発熱した隆起を氷の次に捻り入れてきた。
「あ……冷たくて……気持ちいい」
冷たいような、熱いような、これまでに感じたことのない肉巣の温度に満更でもなさそうに比佐は口元を緩めた。
水月はシーツにしがみついて手負いの動物さながらに震えていた。
ペニスに押し上げられてさらに奥深くへ及んだ氷同士が粘膜の狭間でぶつかり合い、えもいわれぬ刺激を生み出している。
こんなに奥へ追いやられては、比佐の言う通り、溶けるのを待つしかない。
「ふふっ駄猫ちゃん、次は何を入れようか?」
「……し、ね……クズ……っ」
「はぁ、お前のお口は本当可愛くないね」
比佐は水月の中に残る自身の残滓を掻き回すように腰を振った。
溶けていく氷の水分と混ざり合い、いつも以上に耳障りな水音が立つ。
新たな先走りがそのぬかるみに加えられていく。
疲れていた水月は気だるそうに揺さぶられる。
一晩中突き上げられて掠れてしまった声が傲慢なる律動によって喉奥から無理矢理絞り出された。
「はぁ……っぁ……っ……は」
「……その鳴き声……そそるよ、水月……?」
比佐は器用に腰を揺らしながら、サイドテーブルに置かれていたグラスをとろうとした。
距離感を誤った指先はグラスを横倒しにした。
残っていた水が一瞬にして溢れ出、床にまで滴る。
比佐は全く気に止めなかった。
テーブル上の水溜りに落ちていた氷を二つ拾い上げ、一つを口に含む。
もう一つは波打つ水月の背中へ滑らせた。
「あ……!」
シーツにしがみついて掴まれた腰だけを高々と突き出していた水月はつい悲鳴を上げた。
不意打ちの冷ややかなる愛撫は執拗に続けられる。
背筋をなぞって、うなじにまで届く。
くすぐったさを通り越した際どい感覚に水月の肌はぞくりと粟立った。
「ふ……気持ちいいんだ……俺の、こんな締めつけて……さすが淫乱……」
小刻みなピストンから奥をじっくり深く突くようなロングストロークに切り替えて、比佐は、口の中の氷を舐める。
湿り、濡れていく、水月の背中。
人肌の熱で見る間に小さくなっていく氷。
肉奥に入れていた二つの氷もほぼ溶かされて白濁した冷水がペニスに纏わりついてきた。
「朝からお前とセックスしてるなんて」
今更ながら非日常的なこのシーンを五感で噛み締めて比佐は笑った。
濡れた背中に覆い被さり、口に含んでいた氷を掌に吐き出すと、その手を水月の股間へ。
「ひ……!」
「ほら、冷たくて気持ちいいだろ?」
「う、ぁ……やめ……ぁっ」
「せっかくだし、ちゃんと俺がいかせてやるから、俺だけの駄猫ちゃん?」
冷たさと熱を併せ持つ手で水月のペニスをしごき立てた。
しごきながら、加速をつけ、深奥を激しく連打した。
はしたなくぬかるむ窄まりにて、射精を間近にして膨れ上がった先端で肉の狭間を掻き分け、自身を追い上げた。
「っ……いきそ……」
苦しげに歯を食い縛る水月の耳元で比佐はうっとりと呟いた。
目の前に迫る絶頂に向かって疾走するこのひと時が、一番、感じる。
所構わず噛みつきたくなる首筋に欲に忠実に比佐は噛みついた。
「うぁ、ぁ、ぁ…………!!」
甘美に値する水月のくぐもった悲鳴を聞きながら、比佐は、所有の証をその腹の中に刻みつけた。
「あ、タイトル、思い出した」
ハンドルを握っていた比佐が突拍子もなく声を上げ、水月の知らない映画の題名を口にした。
水月は窓際に頬杖を突いたまま無視を決め込む。
車は海沿いの国道を快速に進んでいた。
天気は一向に回復する気配を見せずに、曇り空と海を分かつ水平線は遥か彼方で曖昧にぼやけている。
水月の片耳にはめられたピアスも愚図ついた空と同じ鈍い光をこぼしていた。
「今度一緒に見ようか、なぁ、水月?」
いつも以上に無口な水月は当然の如く比佐に返事をせず、首筋に残る噛み跡を鬱陶しそうに指の腹で引っ掻いている。
比佐は海を見つめる水月の横顔を一瞬だけ見、前方に意識を戻しつつも、氷で戯れたひと時を思い出してふっと笑う。
「お前って本当誰よりも可愛いよ」
水月の殺意が深まっていくのに従って比佐の愛情は深みを帯びていく。
ともだちにシェアしよう!