114 / 259

SはSを愛す-オマケ2

【パラレル/SはSをころす】 そこは閉鎖病棟。 海際に佇む曇り空の似合う翳り纏う病院の片隅につくられた独房の連なる檻。 音程の外れた歌声や金切り声、掠れた悲鳴が絶えず行き交う。 精神科医の比佐は一つの独房を訪れた。 窓には鉄格子、まるで空気が濁ったような室内にあるのはパイプベッドのみ。 そこに座る患者の水月は比佐の訪問にまるで無反応、ひたすら虚空を眺めていた。 「はじめまして、水月」 生気のない、それが却って陶器のように滑らかな質感を肌に与え、まるで生ける人形のような。 だが水月は動いた。 隣に座った比佐にやっと視線を向けてくる。 「調子はどうかな」 患者との遣り取りはその場で記さず、暗記し、後に研究室で書き起こす。 迂闊にボールペンでも見せようものなら奪われて刺されるか、もしくは自死に至るか、とにかく様々な危険性が潜んでいる。 「食事をとらなかったそうだね」 僅かに聞こえてくる波音。 これまで複数の患者が飛び込んでいった海。 「味付けが口に合わなかったのかな」 ゆっくり、水月は、また虚空へ視線を戻した。 視線を逸らされた比佐は独房に入る前から浮かべていた微笑を、ほんの僅か、歪めた。 「甘めがいいのかな、それとも辛めがいいのかな」 白っぽい患者服は鎖骨や首筋を無防備に曝している。 比佐は欲望のまま犬のように水月の首筋を頚動脈に沿って舐め上げた。 見るからに冷ややかな蒼白の肌に舌先が痺れる。 水月は相変わらず無反応だ。 虚ろな眼差しで壁一点を見つめるばかりだ。 「今よりもっと頭の悪くなる薬でも入れられてると、そう、思ってたりして?」 比佐は明後日の方向を見つめる水月の唇に唇を押しつけた。 すでに半開きだったそこから尖らせた舌を押し込む。 「賢いふりをしたいのかな」 話しかけながら好きなだけ口腔を犯す。 緩い蛇口のように滴り始める唾液。 「それとも壊れたふりしてるのかな」 硬いスプリングの上に押し倒されて、喉奥まで陵辱されても、水月は虚空を眺め……? 「……ッ」 水月は比佐の舌端に思い切り歯を立てた。 噛み千切るつもりで。 容赦しなかった。 しかし寸でのところで凶行を察した比佐は素早く顔を離しており、舌先を失うのは免れた。 一筋の濁った血が下あごへ音もなく伝う。 「このクソ医者……ッ変態ッ触るんじゃねぇよ!」 水月の腹に乗っかって抵抗を削ぎつつ、比佐は、とても嬉しそうに微笑んだ。 「あーあ。へったくそ。ごっこ遊びがばれちゃったねぇ」 狂人のふりして俗世から逃げてきた、可哀想な可哀想な、爪を減らした駄猫ちゃん。 檻の中で暮らしたかった? みんながお化けに見えて怖かった? 「ねぇ、怖がりなだめだめにんげん水月?」 比佐は凶暴な患者の扱いにも当然慣れていた。 あっという間に備え付けの拘束具で水月をベッドに括りつけると、先程までの虚ろな表情はどこへいったのか、殺気を漲らせて睨みつけてくる患者に声を上げて笑い出した。 「あーあ。脆いね。かわいそ」 独房には監視カメラがとりつけられていた。 寝台に押さえつけた水月の視線が天井片隅のそれに注がれていることに気がつき、比佐は、親切に言ってやる。 「もちろん録画されてるけど。俺、病院長の一人息子でね。この腐った砦の中では何したって許される」 白衣を羽織ったままの比佐は絶句する水月に顔を近づけて囁いた。 「よかったね、水月」 「……は……?」 俺がお前のこと本当に狂わせてあげる。 一日中奥までたっぷり犯して理性も倫理もぐちゃぐちゃにしてあげる。 「雌豚以下にしてあげる」 比佐は水月の頬にちゅっとキスをした。 すぐ真下から聞こえてくる波音。 これまで複数の患者が飛び込んでいった海。 ここの海は何故かいつも昏い。 「ほら、水平線が綺麗だね、水月?」 潮風に白衣の裾を大きくはためかせて、比佐は、水月の座る車椅子の車輪を病院敷地内である野の上に滑らせる。 ひざ掛けをかけられた水月はひどく大人しく、ただ、振動に忠実に左右に揺れる。 比佐に頬を撫でられても、戯れにキスされても、まるで抵抗せずに従順でいるような。 「ほら、あれ、天使の梯子」 分厚い雲間を割って海面に届いた鈍い日差しの柱。 一際、強い風が吹いた。 ひざ掛けが敷地内の向こう、断崖絶壁のそのまた向こうへ飛ばされたかと思うと、そのまま身投げした。 「あーあ。しんじゃった」 「……てめぇが飛び降りて死ね」 雁字搦めに車椅子に拘束されて自由を奪われていた水月はすぐ傍らに立つ比佐に吐き捨てる。 おもむろに脱いだ白衣をひざ掛けの代わりに膝上にかけてやり、比佐は、また水月に口づける。 「お前って本当、しぶとくって苛め甲斐があるよ、水月?」 いつか殺してやる、そう、水月は昏い海に誓う。 海際に佇む曇り空の似合う翳り纏う病院の片隅につくられた独房の連なる檻。 音程の外れた歌声や金切り声、掠れた悲鳴が絶えず行き交う。 「ふ……ッ、ぅ」 一つの独房にて。 頭上へ伸ばした両腕を寝台に拘束された患者の水月は白衣を纏う精神科医の比佐に陵辱されている最中だった。 いやに長く感じられる舌先が唇奥の粘膜を這い回り、唾液を掻き鳴らし、唾液を注ぎ込んでくる。 噛み千切ってやりたい。 だが、それをすれば、口内射精という罰が待っている。 すでに一度射精された体内は精液で温く泡立ち、引き抜かれずに図太く居座るペニスは余韻を貪って、まだ緩々と奥を突いてくる。 重く暗く濁る。 四隅の見える箱の中。 「もしもお前が女だったら」 整然と撫でつけられていた前髪を獣じみた律動で乱した比佐は多くの人々に好印象を抱かれてきた微笑を緩やかに浮かべた。 「いろんな処理に追われて大変だったよ、水月?」 お前が男でよかった。 甘い声でそう囁いて、また腰を揺らし、再び芯に漲った杭を肉壁の狭間でしごかせる。 惜しみもせずに無駄使いされた精子達が行き場に彷徨って水月の中で死んでいく。 死ねばいい、死ね、こんな男の欠片なんか。 俺の奥で殺してやる。 水月は世界に無関心だった。 期待もせず、失望もせず、ただ日々を生きていた。 だけど彼の周りにいた人間はそれを許さなかった。 彼に感情を宿してやろうと、彼と最も濃い血で繋がった関係にあたる男と女はそれはそれは頑張った。 男と女にも無関心だった水月は自死を図った。 その結果、郊外の海際に佇む病院のこの閉鎖病棟にぶち込まれた。 「はじめまして、水月」 ぶち込まれた次の日、この比佐に犯された。 「雌豚以下にしてあげる」 俺がお前のこと本当に狂わせてあげる。 一日中奥までたっぷり犯して理性も倫理もぐちゃぐちゃにしてあげる。 比佐は本当にそれを実行に移した。 天井隅にとりつけられた監視カメラが無機質の視線を突きつけてくる中、比佐は水月を嬉々として苛める。 彼曰く自分は病院長の息子でこんな凶行にどれだけ至ろうと何のお咎めもないそうだ。 よくわからない注射を打つのも食事を持ってくるのも比佐で、他の職員を、水月はあまり見かけたことがない。 この病棟へやってきた日、制服を身につけた女性の看護士や警備員を数人目にしただけで、それからは誰とも会っていない。 濃い血で繋がった男と女とも。 「だめだめ人間のくせにちゃんと赤ちゃんつくれる精巣、持ってるんだよね、水月って」 薄い皮膜じみた手袋をはめた片手で比佐は水月の萎えたペニスを意地悪にしごく。 ずっと両腕を寝台に拘束され、同じポーズを強いられている水月は苦しげに身を捩じらせた。 普段は冴え冴えとした、生ける人形のようだったのが、今は感情の歪みを許してとても人間らしい顔つきとなっている。 「し……ね……クズ……」 「俺が屑なら水月は犬猫がげーげー吐いたゲロの一部かな」 比佐は相変わらず水月に突っ込んだままだった。 奥まで沈めていたペニスをおもむろに動かしてくる。 「ああ、寄生虫とかね」 腹側に潜む前立腺に強弱をつけて擦りつけてくる。 「あ……」 比佐の手の中で水月のペニスがぶるりと震えた。 そこを目掛けて攻められるのは初めてだった。 比佐に犯されっぱなしの水月はまだ一度も達したことがなかった。 「や、やめ……」 腹の辺りを駆け巡る熱に周章し、焦燥し、水月はついそんな言葉を口走る。 比佐がやめるわけがない。 途端に疼き始めた性感帯を膨張した亀頭で愛しげになぞりながら手の中のペニスを見る間に充血させていく。 尿道口からだらしなく溢れたカウパーがラテックスの手袋を卑猥に湿らせていく。 「いかせてあげるよ、駄猫ちゃん」 好きな女の子に種付けするみたいに射精してみなよ。 赤ちゃんはらませるみたいに、中出しして子宮に着床させるみたいに。 「ねぇ、水月、ほら」 ペニスに絡ませた五指を激しく上下させて腹の内側を摩擦した。 「くそ……っぁ……っぁぁ……!」 手首を括りつけられた寝台のパイプが拘束具の金具部分とぶつかって小うるさい音を立てた。 「もう処女じゃないけど、まだ童貞くん、ほらほら」 比佐はねっとりと濡れそぼつ割れ目を親指で抉った。 水月は金具とパイプを一際激しく音立たせる。 それまで我が身を苛んでいた激痛も忘れ、喉を反らし、弱点を巧みに突いてくる比佐のペニスをまるで搾るようにきつく締めつけた。 比佐の手の中で射精した。 着ていたままの白っぽい患者服のシャツに幾筋の弧を描いて白濁した精液が飛び散った。 相当な量だった。 濃さも、とろりとしていて、粘ついていた。 「……は……こんな締めつけて……えろいねぇ?」 眉根を寄せた笑顔で比佐は満足そうに言う。 一気に増した締めつけを何とかやり過ごして共倒れを回避した彼は。 息を切らし、押し開かれた両足を小刻みに痙攣させ、横を向いて喘ぐ水月を見下ろした。 「今の勢いなら、相手の女の子、きっと妊娠できたよ? そうだ、次は女の子連れてきてあげようか。お前、顔はいいから、きっと喜んで股開いてくれると思うよ、あと金出せばね」 比佐は上体を倒した。 拘束した患者に完全に覆いかぶさると次は自分のいいように腰を突き動かす。 奥の奥が大好きな彼は射精を目指した短いストロークでピストン運動に励んだ。 寝台自体が悲鳴を上げるかの如く哀れなまでに軋んだ。 「いくよ……出してあげる……俺の精子で水月の子宮、いっぱいにしてあげる」 死ね、このクソ医者め。 殺してやる。 俺のなかで全滅させる。 病院のすぐそばに切り立つ断崖絶壁、その下には暗い昏い海が広がっている。 これまで数人の患者を呑み込んだ。 そのせいなのか、いつ見渡してもどこまでも澱んで目に写る。 延々と鳴り響く潮騒が断末魔のハーモニーに聞こえる。 「綺麗だね」 そんな海を眺めて比佐は微笑む。 車椅子に雁字搦めに拘束した水月を横に添えて。 寒くないよう、赤地にチェックの柄が描かれた、さも暖かそうな膝掛けを彼にはかけてやっていた。 「今度、ここでランチ食べようか、ねぇ、水月」 白衣の裾が風と共に戯れている。 名前の知らない花が点々と咲く野原の真ん中で、翳りを帯びた病棟を後ろに、沈み行く太陽を遥か彼方にして、比佐は水月に話しかける。 「寒くて風邪引いちゃうかな」 「死ね」 「風邪引いたら、一晩中、中出しして温めてあげる」 「死ね」 比佐は笑った。 ここへやってきて、すっかり人間らしくなった水月に、ちゅっと口づけた。 「本当、お前って苛め甲斐があるよ、ねぇ、水月?」 end

ともだちにシェアしよう!