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君と貴方と彼とハイド・アンド・シーク/?×?/シリアス
■R15程度の残酷な表現あり
子供の頃、俺には兄さんがいると思っていた。
母さんが仕事へ出かけて誰もいなくなった家の中、自分とよく似た顔の少年と話をした覚えがあった。
「あんたに兄弟なんかいないわよ」
久し振りに一緒に夕食を食べた母さんに「兄さんはどこに行ったの」と尋ねてみたら笑われた。
俺の口元についたブルーベリーのソースを親指で拭って、舐め取る。
派手なマニキュアに彩られた爪が少し荒れた唇の間に呑み込まれた。
「最近、鏡の前がお気に入りでしょう。きっと鏡に写った自分を別の誰かさんだと思い込んだのね」
「人を殺すとあんたに会いたくなる」
ハイドの椎亡 は血がついたままの手で雨海木 の部屋のドアをノックすると現れた彼に笑いかけた。
「……お前、顔にもついてるぞ」
治安の悪いこの街で身綺麗な人間など却って珍しい。
ピアスやタトゥーはもちろん、古傷や生傷を抱えた通行人ばかりが目につく。
服や何食わぬ表情で誤魔化そうとしても、同類の性により、互いに互いが脛に傷持つ者だと何気ない擦れ違いだけでわかる。
ただし人殺しはそうそういない。
「あんたに滅茶苦茶にされたくなるよ、雨海木」
まだドアも閉めていない段階で椎亡は上背ある雨海木にしがみつき、キスをしてきた。
すぐに舌が滑り込んでくる。
雨海木は忙しない濃厚な口づけに応えてやりながら伸ばした片足でドアを乱暴に閉めた。
リビングのソファに縺れるようにして倒れ込み、上に乗ってきた椎亡の細身のジャケットを脱がし、顔についていた血を舐め取る。
この血はどこの可哀想な女のものだろうか、と思いながら。
派手なマニキュアをつけた女が残虐なハイドを呼び覚ます起爆剤であるらしい。
雨海木が知る限り彼はすでに八人の女を殺していた。
「あんた母親みたいだ」
思いがけない事を言われて雨海木は目を細める。
舌先を解いた椎亡は重ねた下肢を服越しに擦らせながら薄く色づいた唇を吊り上げてみせた。
「俺のどこが母親みたいなんだ」
「秘密」
「だけど母親とはこんな事しなかっただろう?」
自分から腰を突き上げて摩擦を強くする。
切れ長な双眸に明け透けな欲望の火照りを宿した椎亡は自分の上唇を舐め、雨海木の耳元で囁いた。
「そう思う?」
雨海木は椎亡を覗き込んだ。
彼はえもいわれぬ艶を含んだ笑みを浮かべていた。
ジーンズと下着を脱ぎ捨てて上体を起こし、取り出した雨海木の隆起を早急な腰遣いでその身に沈み込ませていく……。
「あ……はぁ」
「いいか?」
「ん、いい……っ、あんたの……俺の奥まで来てる……」
器用に淫らに腰が揺らめく。
ほぼ服を着たままの雨海木に結合部を見せつけるように足を開き、胸を反らし、椎亡は喘ぎながら今夜の殺人の話を始めた。
「今日殺したのはね……派手な金髪で……長い爪に真っ赤な色をつけてて……角のモーテルで首を絞めたよ……最初に金槌で頭を殴って失神させて……首の骨が途中で折れてね……あの感触、よかったな……」
そう言いながら椎亡は雨海木の首に両手をかけた。
骨の凹凸を血に汚れた滑らかな指腹が撫でる。
雨海木は恐怖や怯えの色をその顔に泳がせるわけでもなく、腰を揺らしながら頻りに首を撫でる椎亡を見上げていた。
首への愛撫に意識が傾いているのか、彼の律動が些か疎かになってきていた。
「あ……!」
雨海木は真下から椎亡を力任せに突き上げた。
首から手を離した椎亡はバネ仕掛けの人形じみた動きで仰け反った。
「あっ、あっ、もっと……雨海木………っ」
位置を交代した雨海木は椎亡を攻め立てた。
椎亡は恥ずかしげもなく嬌声を迸らせ、よがり、貪欲に求めた。
強靭な腰に両足を絡ませて自らも腰をくねらせる。
聞くに堪えない粘着質の水音が雑然とした部屋に奏でられた。
「イケよ、椎亡」
椎亡は病人じみた仕草で何度も頷いた。
己のペニスをぞんざいに扱き立て、放埓に口を開け、罪深い舌を覗かせて。
それでもこの殺人鬼は綺麗だった。
過去の亡霊に囚われた身であるが故にどこか哀れで繊細で。
雨海木の心身を縛って離さない狂気そのものであった。
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