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さようなら我が初恋-3
「……いや、見ないで……伊佐男様……」
虚脱しかかっていた境地から現実に戻ってくるなり、糸耶は、また顔を伏せようとする。
すると伊佐男は糸耶を抱き込んで反転した。
日向の温もりが刻まれた布団に糸耶の背を埋めさせる。
「……お前は綺麗だ、糸耶」
「……いいえ、私は」
「綺麗だ」
糸耶はようやく伊佐男の眼を視界に捉えた。
「もう俺は迷わない……お前のそばにいる」
「……伊佐男様」
「俺はお前から逃げた四年前の俺自身を殺してやりたい」
「いいえ、私は……今、ここに貴方がいてくれたら、それだけで……」
その先を言えずに糸耶は涙を呑んだ。
伊佐男は再びそんな糸耶に口づける。
口腔の微熱を分かち合い、呼吸を共有して。
より奥の奥まで熱源を突き刺した。
「どこがいい……糸耶?」
「あ……こんな、奥、まで……」
「ここだったか?」
「あっ」
「この先か……?」
「あ……っん」
滑る粘膜に先走りの汁をふんだんに擦りつけると、糸耶は、伊佐男の肩に縋りついてきた。
「ぜんぶ……貴方が触れるところ、すべて……いいです、伊佐男様……」
伊佐男は枕元に両肘を突いた。
肉奥までずっぷり沈めた先で男根を小刻みに打ちつける。
上向く乳首に舌を這わせ、吸い、そろりと噛む。
「あぁん……っ」
「いいか、糸耶……?」
「あ……っいいです……いい……おかしくなって、しまい、そぉ……」
白く細い指が伊佐男の短い髪を弄った。
脇腹に両足を絡めさせて、自ら腰を揺すり、より濃厚な繋がりへともっていく。
「ぁ……っ伊佐男さまぁ……っ」
「今日は……俺がお前に従う……次はどうしたい、糸耶?」
片時も止まることなく突き揺さぶられながらも、糸耶は、蕩けきった眼差しで愛しい男を一心に見つめた……。
畳に伸びる影。
二人が繋がって一つとなり、延々と揺れている。
「ああ……いちばん奥まで……伊佐男さまの、が……はぁ、っん……あぁん……っ」
捩れた布団の上で四つん這いとなった糸耶を伊佐男は後ろから可愛がる。
すでに浴衣を脱ぎ、汗ばむ全身を薄闇に曝し、肌を肌で打ち鳴らす。
「はぁ……糸耶……っ」
掌で左右の尻たぶを抱き、律動に忠実に揺らめく肢体を見下ろして伊佐男も名を呼んだ。
粘膜上で搾り出された先走りが結合部から白い内腿にまで伝い落ちているのがこの上なく卑猥で。
自然と速度が上がる。
脱力しかかっている糸耶にのしかかり、獣のような腰遣いで尻奥を連打した。
「あぁぁぁっすごい……!!」
感極まる糸耶の股間に手を差し入れてみれば、硬く、ぬるっとした感触が利き手に広がった。
握り締め、しごいてやれば、糸耶は背中を波打たせてとうとう崩れ落ちた。
「いさ、お、さまぁ……だめ……っまた、わたし……っあんっ」
「糸耶、一緒に……」
耳元で囁いた後、伊佐男は最も激しく大胆に動いた。
手の中で脈打つ糸耶自身を執拗に愛撫し、尿道口に親指の先端を添え、擦った。
「あぁぁぁぁ…………!!」
尻奥で加減なしに締めつけられた伊佐男は、そこで果てた。
熱飛沫を一思いに放つ。
その最中においても糸耶をしごくのをやめなかった。
「あ、あ、だめぇ……いさお、さまの、熱いのが……っわたし、また……あ、あ、あ……!!」
肉奥を伊佐男のもので満たしながら、糸耶は、愛撫をやめない掌に再び吐精したのだった……。
その日、綾登利家は騒がしい朝を迎えることになった。
当主弟の伊佐男と使用人の糸耶が駆け落ちしたのだ。
本家末息子の雅は欠伸をしつつ、夜の縁側で二人が交わしていた会話を何となく思い出し(盗み聞きしていた)、内心肩を竦めた。
初恋の人と一緒になれてよかったね、糸耶。
僕はきっと、もう、初恋の貴方と会うことはないだろうけれど。
end
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