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それは秘密の/友達パパ×ショタ
「いーち、にー、さーん、よーん」
友達のシゲちゃんがジャンケンで負けて鬼になった。
かくれんぼ。
勝ったおれは何回も遊びにきたことがあるシゲちゃんの家で隠れる場所を探す……。
「絢彦、どこー?」
暗くて冷たい押入れの中。
リビングの方からシゲちゃんがおれを探す声がする。
「しー」
すぐ後ろで聞こえた声。
顔の半分を覆った大きな手。
タバコの匂い。
あったかくて、ちょっと息苦しくて。
お腹の下がムズムズして。
さわると、もっとムズムズして、熱くなって。
「……絢彦君?」
「綾彦君じゃないかな」
夜、プラットホームを抜けて自宅マンションを目指していた中学生の絢彦 は立ち止まった。
ガードレールの向こう側に停まったセダン、運転席の窓から顔を覗かせた相手を怪訝そうに見やった。
「誰……ですか」
怪しんだ絢彦だが。
ドアが開かれて目の前まで相手の男がわざわざやってくると、やや尖らされていた目つきはただ純粋な驚きで限界いっぱいまで見開かれた。
「おじさん」
絢彦と同じ小学校に通っていた、同じ町内に住んでいる友達の父親の草岡修司 はほっとしたように笑った。
「よかった、思い出してくれて」
あの日。
「どうもはじめまして、絢彦君」
よく遊びに行っていた友達の家で初めて修司と出会った日。
絢彦は小学校二年生だった。
平日も土日も留守だった、あの日は珍しく家にいた友達の父親を絢彦は「かっこいいなぁ」と思った。
「いつも滋生と遊んでくれてありがとう」
黒髪で、黒縁眼鏡、スラリとした体型で。
「おとーさんも一緒遊ぼ!!」
教室で一番元気いっぱいな友達とはあまり似ていない、優しくて穏やかそうな男の人に見えた……。
「その制服、△△だったかな」
「うん」
「へぇ。頭いいんだね、絢彦君」
「……別に」
「最近、滋生とは遊んでないのかな」
「あんまり」
慣れない助手席に座った絢彦は些細な問いかけに片言の回答を繰り返した。
「いつもこんな遅い時間に帰るの?」
十字路で緩やかにハンドルを切ってカーブを曲がる修司を横目でチラリと見、頷く。
「塾、行ってるから」
「ああ。塾ね。滋生は行ってないみたいだなぁ」
建築会社に勤務する修司は海外赴任で最近までアルジェリアに一年ほど滞在していた。
現場監督として現地スタッフの指導などに当たり、以前にもアジア諸国を飛び回ったりと涼しげな顔で激務をこなしていた。
今日は休みであり、修司はラフな普段着で一人気ままにのんびり出かけていた。
黒髪に白髪がちらほら。
相変わらず柔らかな雰囲気。
落ち着いた声色が静かで乾いた車内に溶ける。
「懐かしいね」
グレーの学ランがやっと馴染んできた中学一年生の絢彦。
膝に置いたスクールバッグを硬く抱き寄せて、返事をするでもなく、ただ唇を噛んだ……。
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