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白衣なアルデヒド系-2
院生の次に教授である由利 の大声が響き渡り、容器からホルマリン固定液を専用タンクに廃棄していた葛西は振り返った。
由利は日の光が苦手な吸血鬼みたいだ。
白衣を無造作に羽織った細身の彼は、極端に色が白くて、四十二歳という実年齢より随分若く見える。
どこかうっすら危うげな言動が目立つ男だった。
どさり
教授、おくすりの時間ですよ。
よく晴れた日で空はとっても青いのに。
解剖棟の扉を開けば中は暗く冷たく静謐に沈んで。
駐車場から聞こえてくる鳥の鳴き声がやたらいとおしく感じるような。
自分専用実験室と同フロアにある用具室で作成したホルマリン固定液を台車で運んできた葛西は薄暗い砦の明かりをつける。
法医学教室受付に解剖棟の鍵がなく、スタッフの居所がわかるボードを見れば教授のネームマグネットが解剖室にぺたっと張りつけられていた。
解剖棟の奥にはシャワー室や冷凍室が備わり、入ってすぐ左手に解剖室の外扉、細く開いている、暗い。
白衣にマスクと手袋をつけた葛西は台車をガタゴト言わせて外扉を通り抜け、次の自動扉を開かれた状態でOFFにし、解剖室へ。
明かりを点ける。
由利教授は解剖台で眠っていた。
いくら解剖・切り出しの後は毎回水で流して綺麗に磨いているからとはいえ常人ならば決して至らない行為だろう。
葛西はまだ眠っている由利を覗き込んだ。
おくすりを服用して睡魔に抱かれた白衣の眠り姫。
起こすのは可哀想。
葛西は手袋を外すと、そっと、由利の髪を梳いた。
寝心地最悪なはずの解剖台で丸くなった由利は微動だにしない。
死体みたい。
愛しい、いとおしい、貴方。
どんな夢を見てるんですか?
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