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いろいろツイてるリーマン彼氏/イケメンリーマン×真面目リーマン
■受け=突発性男ふたなり設定です
「話があるんだ」
同期であり恋人でもある尾野芳近 (27)の改まった物言いに初瀬薫 (27)は凍りついた。
週末、残業を終えた薫は先に退社していた芳近の自宅マンションへ足早に向かった。
年末年始の休暇を終えてからというもの露骨に余所余所しくなっていた恋人からの久しぶりのお誘い。
気分は上々、ディスカウントショップで缶ビールを買い込んで笑顔で到着してみれば。
生真面目で普段から表情が硬い芳近にいつにもまして神妙な顔つきで出迎えられて。
リビングへ招かれたかと思えば開口一番、その台詞を突きつけられて。
残業疲れも吹き飛ぶくらいの薔薇色テンションでいた薫は青ざめた。
やっぱり、そうだったんだ。
きっと帰省先で何かあったんだと勘繰ってはいたけれど。
芳近クン、元同級生と恋に落ちたんだ。
初恋の人と久し振りに再会して、想いが再燃して、向こうも「実は俺も尾野のことが……」なんて展開になって……!!
もしくは先生?
三十日に開かれたっていう高校の同窓会で渋味が増した元担任に「立派になったな、尾野……?」なんて展開……!?
「おい、薫」
俺と別れるつもりなんだ。
ひどいよ、芳近クン。
俺のこと、ゲイにしたの、君なのに。
君しか見えなくしたの、他の誰でもない君自身なのに。
「どうして泣いてるんだ」
数時間前に帰宅したというのに着替えもせず、ネクタイさえ緩めていない芳近は缶ビールの入った重たいレジ袋を片手に提げて俄かに涙ぐんだ恋人に驚いた。
「リーダーから久し振りに怒られたか」
「ち、違うよ、もう怒られてない……ッだ、誰なの、同級生? それとも先生?」
「何の話だ」
「地元で久しぶりに再会した誰かと付き合うことになったから……俺と別れたいんでしょ?」
芳近は目を見張らせた。
紛うことなきイケメンフェイスを情けなくクシャクシャにして鼻まで鳴らし始めた薫に……苦笑した。
「お前、何勘違いしてる」
インテリアはモノトーンのシンプルなものに統一された、落ち着いた雰囲気の部屋の隅っこで突っ立ってグスグスしている彼の元へ歩み寄る。
「俺がお前以外の誰かに傾くなんてありえない」
どさっっ
ブランドものの通勤鞄とレジ袋を未練なく手放して、薫は、恋人を抱きしめた。
「年が明けて、仕事始まってから、芳近クン、俺と距離とってたから」
「……ああ」
「てっきり誰か他の人を好きになったのかなって、不安で」
同期入社の新卒枠、第一印象はチャラそうな男、芳近にとって苦手なタイプのはずだった薫。
同期の中で一番ミスが多くて上司から説教を度々食らっていた彼は、同期の中で一番仕事熱心であり、同じミスを繰り返さないよう一つ一つ丁寧に業務を覚えていった、本当は努力家で。
「不安にさせて悪かった」
二年前、真夜中のオフィスで残業のため二人きり、職場では秘めていた恋愛傾向を打ち明けて。
いつしか募っていった自分の想いを薫に告げていた芳近もそっと恋人を抱きしめた……。
しかし芳近の方こそ膨大なる不安に駆られていたのだ。
「芳近クン、今、何て言ったの?」
三人掛けソファに並んで座った二人。
暖房が効いた室内、スーツを脱いでストライプ柄のワイシャツを腕捲りし、ネクタイを緩めた薫の隣で芳近は俯いた。
「二度も言わせるな、薫」
きっかけは、もしかしたら、まさかとは思うが。
心当たりが一つだけある芳近。
「一日の夕方、実家の近くにある神社へお参りにいった」
その日は別に何ともなかった。
しかし二日目の朝に何とはなしに覚えた違和感。
深刻な事態だと気付く由もない目覚めたばかりの頭で、何となく、触れてみれば。
「……ついてたんだ、女性のアレが」
「……」
「信じられないだろ」
「信じるよ」
俯いていた芳近がぎこちなく顔を上げてみれば。
すぐ隣で薫はいつも通りの笑顔を浮かべていた。
「芳近クンがそんな冗談言う人じゃないってわかってるし。この何日間かの君のこと思い返せば、ね。本調子じゃなかったのは明らかだし」
「薫」
「大丈夫だよ。俺がいるから」
何の根拠もない「大丈夫だよ」宣言に、恋人の満面の笑顔に、芳近もつられて……微笑んだ。
「だけど一体何てお願いしたの? まさかソレが欲しいってお願いしたわけでもあるまいし」
「ッ、そんなわけ……ッ」
いや、どうなのだろう。
あれは同じ意味合いになるのか。
「芳近クン?」
また俯いて、今度は両手で顔を覆ってしまった芳近に薫はより寄り添った。
「俺には全部話して? 解決の糸口になるかもしれない」
すると、もごもご、芳近は掌の内側で呟いた。
「聞こえないよ、芳近クン」
「~~~ッ」
小中時代にピアノを奏でていたという長い指の狭間に覗いたのは、寒椿の色に染まった頬と、しっとり潤んだ双眸。
「お前と結婚したいって……家庭を持ちたいって……思った……かもしれない」
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