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いろいろツイてるリーマン彼氏-3

「やめろ、職場では盛るなと再三注意しただろ、薫」 オフィスビル八階の共同トイレで。 「でも。芳近クンのココ、濡れてるよ……?」 男子トイレの端の個室から洩れてくる怪しげな囁き。 「あ……っ」 「職場で盛ってたのは君の方なんじゃない?」 「お前がッ……こんなことしてくるから……だッ」 きちんとスーツを着用した芳近。 派手過ぎないモカブラウンに染められた髪色、上から下まで常時整えられた身だしなみ、清潔感に富んだ生真面目リーマン。 「今の芳近クンは俺のイタズラ心を倍増させるっていうか」 ドアにもたれかかる彼の背に密着したストライプ柄ワイシャツにチョッキ姿の薫。 毎朝念入りにセットされた長めの前髪、ぱっと人目を引く色男に仕上がった顔立ちに似合いのイケメンボイス。 指先まで職場の女性スタッフに好評であるその手はベルトを緩め、強引に内側へ侵入し、芳近の下肢に直に触れていた。 ボクサーパンツの中にまで潜り込んだ指は愛液の滲み始めた亀裂をゆっくりしつこくなぞる。 「んっ……」 「寒いけど。濡れてるココはあったかい」 「薫ッ……怒るぞ……」 所属グループが違う芳近と偶然トイレで居合わせて、薫は、一気に火がついてムラムラしてしまった。 確かに日頃から職場でこういうコトはタブーだと芳近は言っていたし、性格からして断固お断りだというのは歴然だった。 エレベーターで二人きりになってキスしようとすれば「嫌だ」と顔を背けられていたし。 オフィス奥の書庫で二人きりになって戯れにハグしようとすれば「やめろ」と睨まれていたし。 これまではちゃんと言うことを聞いていた。 しかし今現在の芳近にはブレーキが簡単に外れてどうしても暴走してしまう。 「ほら。はいっちゃうよ……?」 最も長い指が亀裂の入口を浅く行き来する。 ぬぷ、ぬぷ、授かって間もない膣孔を優しく刺激されて、芳近は、ドアと薫の狭間でビクリと仰け反った。 「これって。最初から濡れてたんじゃない?」 「ゆ、指……それ以上いれるなよ……?」 「昨日の夜もいっぱい可愛がってあげたから。その余韻がまだ残ってるとか」 「ッ……いれるなっ……あ、あ、あ……ッ」 第二間接まで挿入された中指。 職場のスタッフどころじゃない、同じフロアに配されたもう一つのオフィスの人間がいつ来るかもわからないトイレ、焦りと不安に緊張感を伴いながらも。 芳近は薫の指を締めつけてしまう。 我が身を貫く恋人の一熱に火照ってしまう。 体が変だ。 明らかに前よりも敏感になっている。 それに。 薫だって……。 「ごめんね」 「あっ……く……ッん……っん……っ」 「今の芳近クンには我慢ができそうにもないよ……」 肩越しに見れば完全発情に浮かれた薫の眼差しとぶつかった。 次の瞬間。 「んっ!?」 もう片方の手が下顎に添えられたかと思えば口内に突入してきた指、二本。 止める術もなく濡れていく膣孔に、執拗に出入りする指に辟易しながらも、芳近が戸惑いの視線を投げかけてみれば。 著しくオンタイム、昼下がりの職場で完全発情モードと化した恋人はイケメン色気を全開にして微笑んだ。 「俺のだと思って舐めてみて……?」 「ごめんなさい、許してください」 「許さん」 「もうしません」 「どうだかな」 職場から一番近い繁華街の一角、雑居ビル一階の居酒屋カウンターに二人はいた。 週半ば、明日も当然出勤、ビールは二杯で切り上げて早めの締めのハイボール片手に海鮮チヂミをつまむ。 「今日は俺に払わせてください」 店の熱気とアルコール摂取で美肌をほんのり赤く染めた薫は溶けかけの笑顔を浮かべた。 酒に強い芳近は足を組んで片頬杖を突いた恋人を真顔で見返し、ぽつりと言う。 「お前は変態だったんだな」 「ち、違うよ、断じて違うから、手だってちゃんと洗った後だったし!」 「……これまで付き合ってきた相手にもあんな欲求を突きつけてきたのか」 「だから違うって、やだなぁ、すみません、お勘定っ」 「まだ飲み終わってない」 それから十分後、会計を済ませた薫に芳近はきっちり半額支払い、肩を竦める彼を背後にして居酒屋を後にした。 「寒い」 マフラーに首を窄めた薫はピーコートのポケットに両手を突っ込み、革靴でアスファルトをカツカツ鳴らす。 「大寒波が襲来中だからな」 襟の立ったスタンドカラーコートに革手袋をはめた芳近は背筋をピンと立てて白い息を連ねる。 「このまま一人で家に帰ったら凍死しちゃう」 やや前を進んでいた芳近は眉根を寄せた。 大股になって早足である自分の隣に追い着き、肘で腕をトントンしてきた薫をじろりと見上げた。 「お前な」 「わかってる、わかってます! 昨日みたいにタクシーじゃなくて終電で帰るから!」 「……」 「あ、その目、もしかして俺のこと信じてない?」 「信じてない」 断言されて「たはは」と薫は苦笑した。 「今日はノー残業デーだったし。まだ九時前だから。そーだね、十一時にはお暇します!」 今度は芳近が苦笑した。 芳近の自宅マンションは職場から徒歩圏内にあった。 この繁華街からは五分で到着できる。 そして、五分後には、もう。 「またシャワーも浴びさせてくれないのか、薫」 明かりは廊下のみ、薄暗いリビングでコートを羽織ったままの芳近にがっつく薫の姿があった。 「こんな夜はちゃんとお風呂に浸からないと。シャワーだけとか、中途半端にしたら風邪引いちゃうよ」 コートどころかマフラーも巻いたままの薫は正面から芳近を抱きしめていた。 胸元に顔を埋めさせられていた芳近はもぞりと頭を起こし、白い息を散らして唇を開く。 「それならせめて暖房くらい点けさせ、っ」 白い息は薫の唇に食べられた。 まただ。 最近のコイツは決まってコレだ。 よくもまぁ飽きもせずに毎日毎日。 「ン……芳近クン……キスしたら唇あったかくなるね……?」 流されている俺も俺だが……な。

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