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W白衣のナイショなシガレット/無気力理科教師×ノンケ保健室先生
快晴の土曜日。
佐々倉肇 (26)は付き合っていた彼女から昨夜にLINEで別れよう宣言されてイライラしていた。
こんな別れ方に至るのは初めてのことじゃない。
合コンなどで知り合って連絡先を聞いてくるのは向こう、食事に誘ってくるのも向こう、付き合おうと言ってくるのも向こう。
そして一年も経たない内に別れを切り出してくるのも向こう。
「今回は三ヶ月かよ」
佐々倉は私立校の保健室の先生だ。
授業はないが調子を悪くした部活生がいつやってくるかもわからないというのに保健室を無人にし、フェンスに囲まれた屋上でイライラを持て余していた。
付き合って三か月めって、一番楽しいって時期じゃないの?
「なんでだろ、女運ないのかなー」
グラウンドから野球部、体育館からはバスケ部のかけ声が聞こえてくる。
青く澄み渡った空。
悠々と泳ぐ真っ白な雲、飛ぶ鳥、頬を過ぎる爽やかな風。
ぜんっぶにイライラする佐々倉。
癖のないサラサラ髪を掻き乱し、誰もいない屋上を行ったり来たり、意味もなく「あーあ」とため息をついたりなんかして少しでもイライラを発散させようとしていたら。
ガチャ
「あ……忽那先生」
理科教師の忽那 (28)がやってきた。
佐々倉と同じ白衣姿で、校内で見かける時はいつもポケットに両手を突っ込んでいてヤル気が感じられない、でも理事長の遠縁にあたるとかで注意ができずに他教師からは微妙に距離をおかれている、言ってしまえば変わり者、だ。
そんな忽那がゆっくりと大股で佐々倉の元へやってきた。
「こんにちは、佐々倉先生」
「あ、こんにちは」
「いい天気ですね」
「あ、ハイ、そうですね」
科学部の顧問である忽那、部活動指導のため学校には来たものの、結局は生徒任せにして屋上にさぼりにきたようだ。
シーーーーーーーーン
居心地ワル。
なんでわざわざ俺の近くに来るんだよ、忽那先生、反対側の端っこ行くか、もういっそ気ぃ利かせて実験室戻れよ、ねこっけ教師。
つーかなんでねこっけなんだよ、風にふわふわさせんじゃねーよ。
あーふわふわねこっけイライラする。
「佐々倉先生」
「えっ?」
「一本、いいですか」
忽那は内ポケットからタバコを取り出して佐々倉に尋ねてきた。
校内は全禁煙である。
さすが理事長の遠縁だね、ねこっけ忽那。
「あー……あはは……どうぞ」
「失礼します」
同じ場所から取り出したライターで火を点けておもむろに一服やり始めた忽那。
保健室に戻ろうかと思った佐々倉だが。
喫煙者である彼は風にのって流れてきた紫煙にムズムズ。
忽那と違って常識ある保健室の先生は今まで一度も校内喫煙に及んだことはない、しかし昨夜から続いているイライラもあって、つい。
「……あの、忽那先生」
プカプカしていた忽那は骨張った指にタバコを挟め、ちょっと上目遣いになって自分を窺う佐々倉と視線を重ねた。
「すみませーん、一本、頂けますか? あの、月曜日にでもお返ししますんで」
エヘヘ~と笑う佐々倉に忽那はゆるーり頷く。
「どうぞ」
ケースから一本、取り出しやすいように途中まで引き出し、佐々倉へ掲げる。
佐々倉が一本頂戴すればライターまで差し出してきた。
「あ、すみませーん」
忽那は風を遮るため片手を添わせ、自分が手にしているライターに顔を近づけて咥え済みのタバコに火を点けた佐々倉を、じぃっと眺めていた。
「どーもです」
「佐々倉先生、タバコ吸うんですね」
「ハイ、まー、そこそこに」
白衣の裾をぱたぱたさせて、ふぅーと、満足げに息をつく佐々倉。
同じく白衣を控え目に翻させてタバコを気だるげに嗜む忽那。
喫煙によって気分が紛れてリラックスしてきた調子のいい佐々倉、年上のねこっけ理科教師にぺらぺらと喋り始めた。
「実は僕、昨日彼女にフラれちゃって。しかもLINEで、ですよ? ありえないですよねー」
「そうなんですか」
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