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彼は僕の心臓をさらう/バリタチ大人×フツメン大学生×バリネコ大学生

スタバでコーヒーを飲みながら友達の間ノ瀬留加(まのせるか)は言う。 「この間、ストーカーから殴られちゃってさ」 向かい側の一人掛けソファに座っていた(ひとみ)は、大学で間ノ瀬に出くわした時から何となくそうだろうと予想はしていた。 「左目、大丈夫なのか?」 間ノ瀬の綺麗な顔につけられた眼帯を指差すと、指差された彼は「目は何ともないんだけど」とソファに背中を沈めてため息をつく。 左目を隠していると右目下の泣き黒子がいつにもまして強調されるようだった。 「腫れがなかなか引かなくてさ。不細工な面、曝すのも嫌で、眼帯つけたわけ」 「却って目立ってる気もするけど」 「いーのいーの。似合うでしょ」 「てかさ、ストーカーって、それ、前に付き合ってた会社員のことだろ?」 「当たり」 「ちゃんと別れたんじゃなかったのかよ?」 「そのつもりだったんだけど。先月かな、メールでバイバイ、って」 「……小学生かよ」 「そしたら先週、部屋に来てさ。怒るわ泣くわ、で。殴られた時なんか、鍵開けようとしてるときに階段駆け上がってきて、胸倉捕まれて」 「……怖くないか、それ」 「別に。正面からの暴力は平気」 間ノ瀬は足を組んで過剰な貧乏揺すりをしながら携帯を操作していたかと思うと、いきなり、眸の方へ画面を掲げてみせた。 「で、今、この人んとこにいる」 「……」 「かっこよくない?」 場所はどこか薄暗い店の中、カウンターに座った黒髪の男の横顔が写り込んでいる。 「アパートはあいつに張られてるから、帰るのも面倒でさ。適当な店で時間潰してたら、その人に声かけられて」 「ふぅん」 「夏生さんっていうの」 「ふぅん」  「ダイニングバーとクラブのオーナーで、同じビルに自宅兼事務所っていうの? 住んでる部屋があって、一昨日から、俺、そこにいる」 「へぇ」 「今から呼んでもいい?」 眸は内心「またか」と思った。 間ノ瀬は関係を持った男を毎回眸に会わせたがるのだ。 ストーカーと化した会社員とも前に顔を合わせていて、ちょっと軽薄そうな性格で、しつこく付き纏うような人間には見えなかったものだ。 「なぁ、何でいつも俺に会わせるの?」 「眸、唯一の友達だから」 友達、と言っておきながら、間ノ瀬は眸を誘惑してきた過去がある。 お互い酔っていて、冬の寒い日で、つい人肌が恋しかった眸はその誘惑に負けた。 ワンルームの自分のアパートで、キスをして、勃たせられて、眸は友達の間ノ瀬を抱いた。 その夜と、梅雨の最中、計二回、眸は間ノ瀬とセックスしたことがあった。 「呼んでもいい?」 吊り目がちの眼を片方、上目遣いに睫毛の長さを際立たせ、間ノ瀬がもう一度尋ねてきた。 「どうも」 この瞬間、眸はいつもどう振舞えばいいのか判断に迷っていた。 これまで間ノ瀬はいろんな男を連れてきた。 別の大学の学生、フリーター、美容師、会社員……。 適当な相槌を打って、当たり障りのない話をして「用事があるから」とお決まりの文句で締め括ってその場を去っていた。 「眸君、だよね。留加から聞いてる」 夏生(なつき)は今までの男達と違っていた。 何が、と聞かれると答えに迷う。 それは非常に曖昧な感触で。 容姿だって、特に背が高いというわけではなく、平均的な体型で、目立ってお洒落ということもなく、黒髪で。 少し尖った目つきが特徴的といったところか。 「ウチで飯、食べていったら。多国籍料理。うまいよ。地階の店で遊んでいってもいいし」 だが確かにこれまでの男達とは何かが違うように眸には見えた。

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