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彼は僕の心臓をさらう-2

声が聞こえる。 慣れない緊張につい強い酒を飲み過ぎて、夏生の自宅兼事務所というビル最上階の部屋で束の間の眠りに落ちていた眸は、目を開けた。 「あ……っ、ぁ」 ソファで丸まっていた眸は寝癖のついた頭をゆっくりと起こす。 コンクリートが打ち放しの、暖房が効いていなければ相当な冷気に満たされる広く暗い部屋にはブラインドの覚束ない影が下りている。 「夏生……さ……っ」 暗い部屋に差し込む仄かに明るい光は開きかけたドアの向こうから滲んでいて。 間ノ瀬の声もそこから聞こえてくる。 露骨な音と共に。 頭痛を催すまでには至っていない、ふわふわとした陶酔感に思考が縺れた眸は、誘蛾灯に誘われる羽虫のように、そこへと近づいていった。 「あっ……そこ、すごい……」 物に乏しい殺風景な空間、コンクリートの壁際に寄せられたパイプベッドの上に二人は全裸でいた。 四つん這いになった間ノ瀬を後ろから夏生が突き揺さぶっている。 ……嘘。 間ノ瀬、後ろからされるの、あんなに嫌がっていたのに。 だってあいつの背中には……。 「……あ」 夏生の筋張った腕が伸ばされて、間接照明にぼんやりと浮かび上がる、間ノ瀬の背中に届いた。 そこには複数の蚯蚓腫れが刻まれている。 かつて幼少時代に間ノ瀬が母親により受けたという虐待の痕跡だった。 だから、間ノ瀬は、日頃から背後を気にする癖があった。 眸を含めた、これまでの男達とのセックスで、一度も後ろからの体位を許したことはなかった。 「夏生、さ……」 緩やかな手つきで背中を何度か撫で上げると、上体を前に倒し、夏生は間ノ瀬の傷跡に一つ一つキスを落としていった。 節くれ立った指で先走りに濡れる間ノ瀬のペニスを緩々と扱きながら、波打つ背中に口づけを注いでいく。 その途中、ドア口にぼんやりと立つ眸を見つけ、尖った目つきに不埒な影を潜ませた。 「留加、眸君」 「……え」 眼帯をつけたままの間ノ瀬は熱に魘された右目で眸を捉えると、ふやけていた口元に締まりのない笑みを浮かべた。 「眸、起きたんだぁ……だいじょ……ぶ? 今日、飲み過ぎちゃった、ね……あっあっ」 台詞の最後は夏生の深い突き上げにより嬌声へと変わった。 「君も来たら、眸君」 異様に喉が渇いていた眸は夏生の問いかけに返事をすることができず、ただ、ごくりと唾を飲んだ。 「おいで」

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