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きっとおれは狸に化かされてる/高校生×むじな?
西日も絶え果てて宵の翳りが木立の狭間を満たす。
冷えた風に吹かれて草むら全体が揺れ、木々が不気味にざわめく。
そばの沼からはゴボゴボと鈍い音がしていた。
生臭い匂いが四方に散って群生する彼岸花にまとわりつく。
明かりはなく、舞い散る葉が羽虫と一緒に頭上を掠め飛んでいく。
地面に組み敷かれた男は俺が肉の奥を突く度に恥知らずな声を上げた。
ネクタイは喉に絡まり、ワイシャツは胸板が見える程に捲れ、靴下を履いたままの足先は不要な力に囚われて強張っていた。
撫で付けられた髪は乱れて白い額に落ち、汗に濡れている。
反り返ったペニスの先が男自身の腹に擦れていて、何だかとてつもなく卑猥な眺めについ喉を鳴らしてしまった。
俺はバスケの部活帰りで疲れていたはずの体に熱を行き渡らせて男を苛んだ。
もっと突きやすくなるよう、男の両足を肩に担いでさらに深くまで腹底を抉ると、動物じみた鳴き声が迸った。
小刻みな律動に綺麗な顔をだらしなく歪ませては下顎へと唾液をこぼす。
先走りの汁と汗に塗れて鮮やかに色づいた亀頭を乱暴にしごいてやれば全身を波打たせて喘いで身悶えて。
「気持ちいい?」
問いかけると何度も頷いた。
「もっとほしい?」
その問いかけにも頷いてみせ、悩ましげに催促してきた。
いつもと同じやり取りなのに毎回感じてしまうのはどうしてだろう?
宵闇に閉ざされた草むらに汗と精液の匂いが四散する。
沼が相変わらず鈍い音を立てている。
何かが息を潜めているのかもしれない。
「はあ……ッ!」
男の肉奥に白濁した欲望を勢いよく何度も何度もぶち込んで、動物みたいに唸って、気が済むまで突き上げて。
ふと何となく空を仰げば。
枝葉越しに三日月に嘲笑われているような気がした。
両親と年の離れた姉と一緒に遅めの夕飯を済ませ、テレビ番組を見ていたら、呼び鈴が鳴った。
台所で後片付けをしていた姉が長い廊下を走り抜けていく。
浮かれた足音が家中に響いた。
次に、玄関先で帰ってきた者を出迎える声。
騒がしいテレビの音声にも負けない華やいだ声だった。
畳に寝転がっていた俺は居間に入ってきた男を見、普通に「おかえり」と言う。
男は笑顔で「ただいま」と返し、肘掛け椅子に座る親父に丁寧に頭を下げた。
長い超過勤務を終えた体であるくせに、ネクタイをきちんと締めて背広を着込み、黒髪が綺麗に撫で付けられているのは、少々わざとらしい気もした。
それとも、あれは実は偽者だったのだろうか?
あまりの変貌ぶりに俺の頭は馬鹿げた妄想を生み出した。
顔は同じだが、先程の淫乱極まりなかった人間とは別人と思える、その違和感。
誰かがこの義兄に化けて俺を茶化し続けているのではないだろうか?
……ああ、本当に馬鹿げてるな。
親父に中間テストの結果はどうだったかと突然聞かれて、俺は、狸寝入りを決め込んだ。
えんど
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