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サンタのあのコは今宵しも/バツイチ×一途男の娘サンタ
妻と離婚してから初めて迎えるクリスマス。
高岡透 (41)はチキンもケーキも買わずに賑わう街を足早に通り過ぎ、法律事務所から1LDKの我が家へ真っ直ぐに帰宅した。
クリスマスは幼い頃から苦手だった。
どちらも弁護士で多忙だった両親はいつだって不在、普段から慣れているはずの独りきりの夜がその日は一段と淋しく感じられたものだ。
「ああ、でも……」
一度だけ。
一度だけ、夢のようなクリスマスを過ごしたような。
『とおる君、泣かないで?』
持ち帰ってきた仕事に目を通していたら、いつの間にか忍び寄ってきた睡魔に襲われて。
ろくに食事もとらずにダイニングで透は寝てしまった。
カチャカチャ……
何やら音がする。
別れた妻がやってきたのかと錯覚した透だが、そんなわけがない、彼女は新しい家族と聖なる夜を誇らしげに満喫しているだろうと、思い直して。
目を開けた。
一人用として購入したダイニングテーブル上にはファイリングされた書類、すっかり温くなったコーヒー、携帯、ボールペン、スリープに入ったノートパソコン。
ぬいぐるみ。
熊のぬいぐるみ。
いや、待てよ。
ついさっきまでぬいぐるみなんてなかっただろう?
そもそもこの部屋にぬいぐるみなんて一つもないはずだ。
しかもこの継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみは。
「……クマ太郎?」
「あ、起きたんだね、とおる君」
目の前に置かれたクマ太郎を凝視していた透が次にキッチンに視線を向ければ。
可愛らしいサンタの格好をした少女がカウンターの向こうにいて。
「今、ケーキ切ってるから。いっしょに食べようね?」
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