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鬼も目覚める丑三つ時/男前配下×美人鬼

大江山という山に女を喰らう鬼がいた。 柔らかく芳しき乳色の肢体を裂いては引き千切り、その世にも残酷な牙で依然蠢く新鮮な血肉を思う存分味わい啜っていたという。 やがて彼の鬼は源頼光をはじめとする逞しき手腕共に成敗された。 そんな与太話が、華やかな都に暮らす人々の間で実しやかに囁かれているらしい……。 月のない、暗闇が支配する、夜。 ひっそりと静まり返った大路を行くのは強かに酔った三人の侍である。 「あの卑しい守銭奴が鬼退治とは解せないものよ」 「大方、お供の四天王とやらにやらせて、自分は高みの見物に決まっておるわ」 「実際そんなものがいるのか、甚だ怪しいものだがな」 先頭を行く侍の手にした赤提灯が覚束ない明かりを四方に落としている。 立ち並ぶ商売屋はどこも暖簾を外しており、彼等が発する足音以外に聞こえてくる物音など一つもない。 しかし、その声は彼等のすぐ近くで不意にしたのだ。 「口を閉ざせ」 その声がした途端、三人は堰をきって振り返った。 提灯を持っていた者はその手を勢いよく先へ突き出し、己等の背後に立つ人物を認めて、侍達は腰の刀にすぐさま手を伸ばす。 「何奴!?」 明かりに照らされたその者は一瞬片目をさも不愉快そうに細めた。 首巻も袷も夜の闇と同じ、正しく黒装束の男だ。 硬そうな髪を逆立て、目つきは鋭く、れっきとした殺気を身に纏っている。 三人の侍は何とも言い難い気迫に圧されて怯んだものの、刀の柄にかけた手はそのままに姿勢を低くした。 「口を閉ざせ」と、もう一度漆黒の男は言った。 「……何だ、こやつは」 「気が触れておるのか?」 眉根を寄せた二人は顔を見合わせ、残る一人は口元を歪めてその言葉をまたも口にした。 「鬼の類か?」 夜、決して口にしてはならない禁断の言葉を。 束の間の沈黙が双方の間に流れた。 そして、その沈黙は思ってもいないところから、おぞましい程にゆっくりと破られた。 「何の音だ?」 目の前にいる男から目を離すのは賢明でないと思われたが、それでも、三人の侍は振り返らずにはいられなかった。 遠くから足音が聞こえてくる。 たっ、たっ、たっ。 たっ、たっ、たっ、たっ。 たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ。 徐々に近づいてくる足音は鮮明となり、大きくなり、急ぐでもなく単調にこちらへ近づいてくる。 その余りの不気味さに侍達は顔色を悪くした。 ただ事ではない、とこれまでの経験が己の頭に必死に語りかけてくる。 あれは人の齎す音ではないと。 「ああ、呼び寄せやがった」 漆黒の男は舌打ちした。 近くの長屋の軒に置かれている水瓶に片手を浅く浸し、軽く払うと、縮み上がっている侍達に平然と言った。 「鬼が来るぞ」と。

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