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キミの女装に乾杯!!/年上ギャップあり経理課長×年下女顔営業
十一月下旬、早めに開催された会社全体の忘年会で侑月 は女装した。
「やっぱセーラー服がダントツ王道だよな、ちゃんとツボおさえてるじゃん」
「こーら、しゅ・に・ん、おさわりはナシですよ?」
直属の上司やら同じチームの同僚らに大いにからかわれ、ノリのいい侑月は酔っ払いが半数を占める座敷をノリノリで盛り上げていたのだが。
「諸岡課長っ、いつも急な接待に迅速な事務処理、恐れ入ります! お世話になりっぱなしでスミマセン!」
「……」
あれ。
諸岡課長にぷいってされちゃった……。
経理課の諸岡 のことを侑月は密かに尊敬していた。
自然と撫でつけられた黒髪、シンプル眼鏡、皺のないワイシャツにハンカチ、飲み会の席でも緩められないネクタイ。
いつも姿勢正しくきちんとしていて、無駄に大声を上げない、さり気ない気配りやアドバイスで経理課全体の仕事の効率UPを常に心がけてる。
ズボラで帰りの電車ではぐーすか寝てテンション上がったらぎゃあぎゃあ騒ぐ、独り善がりなプレゼンが目立つ俺とは正反対だ。
こんな人に産まれていたら、うっかりチャージし忘れて改札で足止め食らうこともなかっただろうなぁ。
見るからに真面目でお堅い諸岡課長に憧れの気持ちを抱いていたからこそ。
ビールのお酌をしようとし、無言で顔を背けられた際には、ショックの余り一発で侑月の酔いは醒めた。
「あ、えっと、うるさ過ぎましたね、スミマセン」
「……」
「おい、侑月! こうなったらお前使ってJKビジネス路線プランで顧客バリバリ増やしてくぞ!」
「ッ……それって枕営業ですか? もちろん主任も同伴してサポートしてくれますよね?」
「ナマ営業中、カメラ回してやる!」
「主任! 自分が興奮しても! カメラは止めちゃ駄目ですよ!!」
テーブルを隔てて交わされるあほあほ酔っ払いトーク。
諸岡を隣にして申し訳ないものの、直属の上司を無視するわけにもいかず、侑月はどっと冷や汗をかいた。
「あー、お騒がせしてしまって申し訳ないです、諸岡課長」
「……」
「……失礼しますね」
そりゃあそうだよな。
真面目で潔癖そうな諸岡課長のことだもん。
おふざけ女装とか、完全アウトだったんだろうな……。
そんなことがあったものだから、てっきり、諸岡課長の顰蹙を買ってしまったとしょ気ていた侑月であったが。
「え、え? 俺と二人で飲み……ですか?」
久し振りにマトモにとれた昼休憩、のんびり何を食べようかウキウキしながら会社を出ようとしていたら、エレベーターホールで諸岡に呼び止められて、まさかの飲みお誘い。
「侑月君の都合のいい日に合わせる」
なーんだ!!
俺、諸岡課長に嫌われてなかった!!
「あ、えっとですね、今週は、えーと、うわっ、予定ありまくり……えーと……今日とか……」
「今日か。わかった」
「え! いいんですか!?」
スマホでスケジュールを必死こいて確認していた侑月が歓喜の声を上げれば、諸岡は、緩やかに苦笑した。
「まるで侑月君が誘ったみたいなリアクションだな」
はーーーー……諸岡課長の洗練されたオトナスマイル……これぞ癒し……。
「店、予約しておくから。何時くらいがいいだろうか」
「あっ、そうですね、八時には間に合うと思います!」
「わかった。呼び止めて悪かったね。昼休憩、行っておいで」
「はい!!」
諸岡課長に嫌われてなくてほんとよかった!!
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