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法医学教室の想い人/まとも助手←変人暴君教授←腹黒海保←クール助教
えー、ここは私立大学に属する医学部法医学教室である。
基礎研究棟七階に四つの実験室を持ち、県警・海保などから司法解剖・検死の依頼があると、別棟の解剖室で遺体の切り出しなどを行ったり……ごほん。
「ホルマリンってこんな強烈だった? 目ぇ痛い、ヤル気なくすわ」
広い解剖室、L字型の解剖台が二台、その一台でホルマリンが及ぼす刺激に不満を言いつつも、前日に解剖が済んで取り出されていたほにゃららの一部を慣れた手つきで切り出し中であるのは。
「そうだ、脳死と植物状態の違い、言ってみ?」
見学している院生に唐突に問題を投げかける理瀬 教授(42)。
顔半分がマスクで覆われているせいか、ひんやり険しい双眸がより際立って見える。
「あーもう、とっとと答えろ、ノロマども」
ひんやり険しい双眸から察する通り、その性格も難あり、だ。
「十五体分、四時には終わりますかね」
理瀬教授の隣でキコキコしているのは助教の鮫島 先生(37)。
関西訛りで長身、紛うことなきイケメン属性のルックス、聞こえているのか聞こえていないのか挨拶しても無視することがしょっちゅう、性格が掴みづらいお人だ。
おっと、ホルマリンが少なくなってきたぞ。
「ホルマリン補充してきます」
技能補佐員の俺(ちなみに二十代だよ!)はb(ボディ)とB(脳)……うん、ほにゃららが入っていた容器洗いの手を止め、減ってきたホルマリンの補充へ。
あー疲れた、立ちっぱだ、昼しっかりとったのにもうお腹空いた、でもまだ後九十分くらいは続くハズ、足腰肩腕ぐろっきーだ、これ。
「手伝うよ、葛西 君!」
あ、やったー、彼は海保から研修に来ている邑志摩 さん(28)、この人爽やかでかっこよくてスポーツ万能で女子受け半端なさそうだ。
「わ、助かりま、」
「ちょい待ち、邑志摩クンは標本カセットに入れてもらってメモ担当、お前ぇがバケツ洗いばっかしてやがるから滞ってんだよ」
わ、こわ、教授こわ、まぁいつものことだけど、誰に対してもこんなんだけど、このお人。
いーですよーだ、一人で行きますよーだ。
「ごめんね、葛西君」
「あ、いーえ! 気にしないでください」
長靴を履いてマスクにゴム手袋にエプロンじみた保護衣姿の俺は解剖室を出、在庫室へ向かって薄暗ーい冷え切った通路、台車をガラガラ押していった(ココは結構広いのだ)。
つーかせめて十体にしてくれよ、変にヤル気出されても困りますよ、理瀬教授。
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