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イケナイ情事で愛されて-5
「またバラ見てんのか、神原」
「うん、だって、すごく綺麗だから」
「へぇ」
「一度だけでいいから、俺、両腕いっぱいのバラの花束もらってみたいな」
「お前な、女みてぇなこと抜かすなよ」
「……やっぱり変ですか?」
花屋の前で立ち止まってバラに見惚れていた匡季は退屈そうに隣で佇んでいた相模を見上げ、照れたように微かに笑った。
「先輩」
目の前で閉じられたドアをぼんやり見つめていた匡季は視界から去った彼をぽつりと呼んだ。
先輩、先輩。
ひどいことを思ってごめんなさい。
……先輩、濡れていた。
……傘、傘を、渡さないと。
……先輩、風邪、引いてしまうから。
「先輩……ッ」
靴も履かずに匡季は外へ飛び出した。
ゆったりと幅のある階段を下りて門扉に手をかけていた相模は振り返る。
目深にかぶったフード下に片方の眼だけが外気に覗いた。
「先輩、傘、を、」
その時。
稲光とほぼ同時に雷鳴が鳴り響いた。
びりびりと空気が振動し、鼓膜が怯えてしまうような凶暴な音色だった。
驚きの余り匡季は相模の背中に我を忘れてしがみついた。
降り頻る雨の中で。
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