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イケナイ情事で愛されて-6
「俺、雨……っ、嫌い、です」
雨が降り続く人気のない裏庭、頭上高くで鬱蒼と葉の生い茂る常緑樹の真下で匡季は泣くように呟いた。
「父さん、が、死んだの、こんな日で……っ俺を迎えにこようとして、車に……ッぁ……」
冷たい雨で濡れていく体に熱い隆起が打ちつけられる。
ざらざらした硬い木の表皮に爪を立て、匡季は、背中に隙間なく重なる相模の重みに悲しみを預けた。
「ぁ……っせんぱ……っあん……っ」
「……じゃあ、雨の日、これからずっとセックスする」
「ぁ……っぁ……っぁ……っ」
「イかせてやるから、ぜんぶ忘れるくらい」
「……せんぱ……っぃ」
雨が降ったら俺のこと思い出せよ、匡季。
玄関床に次々と出来上がっていく水たまり。
「ん……っんぅぅっ……ンッ」
バラの花弁が散る玄関ホールで押し倒された匡季はずぶ濡れの相模にキスされていた。
吐息まで貪られるように喉奥まで犯される。
飢えた舌先が焦燥する舌先に絡みついて、舌の根ごと、囚われる。
力任せに床に縫い止められた匡季の両手首、長細い五指が苦しげに虚空をなぞった。
「んんん……ッぁ……だめ……先輩、いや……っ」
「匡季」
「やめて、お願い……っこんなこと、俺……っ」
「本当に嫌か?」
かつて聞いた台詞に匡季は目を見開かせた。
その双眸はずぶ濡れになった相模の全身よりも濡れきって微熱に魘されていた。
「だって、お前の、」
「あッ」
両足の狭間に割り込んだ膝で下肢の中心をゆっくりさすられる。
「だ、め、いや、先輩、」
「硬くなってる」
「ぁ、ぁ、ぁ」
膝でじっくり撫で上げられた後にやってきたのは冷たい掌だった。
服越しに包み込まれて、揉みしだかれて、しごかれて。
相模の真下で匡季は嫌々と首を左右に振った、自分ほどではないが雨にしっとり濡れた彼の青ざめた首筋が視界に誇張されて、相模は、そこに唇を寄せる。
そっと歯を立ててみる。
ぶわりと全身に伝った甘い震え。
匡季の口内から溢れた唾液がだらしなく滴った。
「か、まない、で、いや」
「匡季、欲しい」
「だ、め、いや、だめ」
「お前のこと、抱きたい、今すぐ」
「せんぱ……」
「昔みたいに名前で呼べ、匡季」
「あっ、ぃや……っ先輩、俺、もぉ……っ」
「名前、で、名前言えッ、匡季……ッ!」
「あ、あ、ッ、あ、ッ、りょ……ぉ……了……!」
玄関ドアが細く開かれたままになっていた。
「待、って、ドア、ドア閉めないと……ッ」
相模の力が俄かに緩まり、乱れたシャツを無意識に正した匡季はためらいがちに彼を押し退けて手を伸ばした。
流れ込んでくる騒々しい雨音を遮断するようにドアを閉ざす。
震える指先でロックをかけた、ら。
「あ」
そのまま背後から抱きしめられた。
「ぁ……ぃ、や、ッ……」
「……は……狭……処女に戻ったみてぇ」
「やだ、そんな……相模先輩……了……」
「……すぐに馴らしてやるよ」
玄関ドアに正面から押しつけられた匡季は耳元で低く響いた相模の声音にぞくりと肌を粟立たせた。
体の奥が再び暴かれていく。
重く、熱い、相模の逞しい熱源が肉孔を拡げて窮屈なナカへ突き入ってくる。
「ん、や、っ」
こんなところで。
こんなことを。
過ち以外の何物でもない。
「あ、ぁ……了……すご、ぃ……」
それなのに俺はこんなに感じて。
「すげぇな、ここ、びしょびしょだ……」
こんなに濡れてしまって。
先輩に、了に、身を委ねてしまっている。
ううん、体だけじゃない、心も。
「いいか……?」
「ん……ッいい……了の、もっと……」
鳥かごは汚れた。
穏やかな静けさは壊された。
ほら、貴方はそうやって俺の静かな生活にヒビをいれて、壊しかけて。
前よりも美しく再生するように俺の世界を鮮やかに生き返らせてくれる。
卒業を機に匡季から離れようと思った。
そうでもしないと、俺は、あいつを。
「……やっぱり変ですか?」
バラに見惚れた匡季はバラよりも綺麗で色鮮やかに見えた。
そんな花を、誰かに奪われる時がきたら、俺は。
この手で毟って握り潰したいと思ったんだ。
「あ……っあ、ぁ、あっ……了、了ぉ……ッ」
でも今は違う。
誰かのものでもいい。
雨の日には淋しそうな匡季を誰よりもあたためてやることさえできれば。
end
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