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今日は駅前で19時-2
槇はバイだった。
清瀬のストレートな恋愛感情表現に嫌でも自分への好意を察した彼は、次の約束を断るわけでもなく、毎回時間通りに指定された場所へやってきた。
「槇、俺と付き合ってくれる?」
「……いーけど」
そんなわけで二人は恋人同士になった。
多忙な二人はなかなか休みが合わない。
月二でよく会えた方、会えない時は一ヶ月以上日が経つこともあった。
「お疲れ様」
「……お疲れ」
今日は正に会えない日々が一ヶ月以上続いた後の久しぶりの逢瀬。
初めて訪れた創作料理居酒屋のカウンターで一先ず乾杯、冷えた生ビールを疲れた喉に流し込んだ。
「どれが食べたい?」
「……ポテト」
「じゃあポテトと、本日のお造りと、串いきたいな」
「……豚バラとぼんじり」
結構、見た目細いのに油っこいの好きなんだよな。
さっぱり和食よりこってり洋食派だし。
そういえばこの間の健康診断、血液検査でコレステロール値が上がったとか言っていたような。
「槇、サラダも食べよう」
「……どれでもいい」
お通しを食べながら槇はぼそっと返事をする。
例えば久し振りに会える週末、どうしようかと清瀬が尋ねれば「決めていい」といつも返してくる。
映画でも観ようか、どれにしようかと尋ねれば「どれでもいい」。
基本、槇は清瀬に任せっきりだった。
これといった趣味もない。
感情表現も乏しい。
そんな槇と恋人同士になった当初、予想していた以上の普段のドライぶりに清瀬は思った。
槇は本当に俺のことを好きなんだろうか。
体だけの手軽な関係として俺と付き合ってるとか。
バイだから、カワイイ女子に告白されたら、そっちに転がるとか。
ある夜、恋人関係になって何回目かのドライブ、清瀬はそんな不安を腹底に沈めて車を走らせていた。
アウトレットで適当に買った服を着た槇は助手席で流れゆく夜景をぼんやり眺めていた。
店員のオススメを買う清瀬は対岸で工場地帯が光り瞬く海際に車を停めて無意識にため息を零した。
「……なぁ」
「ッ……何?」
「お前さ……今から別れ話でもするつもり?」
「は?」
「今日ずっと……表情暗いっつぅか……あんま、しゃべんないし……」
槇、俺のことちゃんと見てくれてたんだ。
いつもと違うって、気づいてくれたんだ。
「違うよ、するわけない」
清瀬の返事を聞いた槇は助手席シートに深くもたれ、ちょっとだけ、笑った。
「そっか……びびった……久々焦った……」
今日、久し振りに槇に会えた。
やっぱり嬉しそうにするでもなく隣で黙々と油っこい料理ばかり食べているいつも通りの彼が愛しくて、愛しい。
「もう出ようか、槇」
「へ……ポテト残ってんだけど」
「ホテル行こう?」
「……今から? 部屋じゃなくて?」
「今から。ホテル」
まだポテトが残っている皿をちらりと見、しょっぱい指先を軽く吸い上げて……カウンターで小声のお誘いに槇は答えた。
「別に、いーけど」
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