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今日は駅前で19時-6

清瀬と見知らぬ男の組み合わせを一目見た瞬間、槇の頭にぶわりと広がったのは、疑惑、だった。 あれ、もしかして、これって浮気中……なのか。 同じスーツ姿だったら仕事関係の知り合いだろうけど、私服だし、年下っぽいし、ちゃらそうだ。 デザイン関係だったらこういう雰囲気の人間もいるかもしれない。 よく知らないけど。 スーツじゃなくやたらヨレヨレのシャツでアシンメトリーの髪型で両耳ピアスで。 だけど。 「まさか、槇、一人で酒飲むとか、うわ、意外、え、実はいつも来てるとか、ほんと、意外で、びっくりした、あはは、は」 この歯切れの悪さ。 どう考えても動揺し過ぎだ。 ただ居酒屋で偶然会っただけで、こんなうろたえるか? 「……なぁ、清瀬」 「うん!?」 「……隣の人は、」 「ッッッッ」 どうしよう。やっぱり。これって。考えたくないけど。 「弟です」 硬直した清瀬の向こうからひょいっと顔を出して、彼は満面の笑顔を浮かべた。 「俺、弟の大雅でーす」 「ッ……あーーーーもう!!」 清瀬は半分残っていた生ビールを一気飲みして、同じく生ビールのジョッキを両手で持っていた槇に向き直った。 「俺の不肖のニート弟だよ。本当、不肖過ぎて紹介したくなかった」 「ひど、にーちゃん」 「にーちゃん、じゃない、兄さんって言え」 「あと、ニートじゃないし、フリーターだし」 「ニート息子に痺れ切らして、母さんに追い出されて、今俺の部屋にいるんだ、最悪なことに」 二十四歳の弟、大雅(たいが)は「にーちゃんビールおごって」と片腕に擦り寄り、兄に邪険に振り払われてもニヤニヤしていた。 弟、か。 言われてみれば似てる、かな、口元とか。 「槇さん、ビールおごってくださーい」 「ああもうッ、だから会わせたくなかったんだ」 「大丈夫、大丈夫、にーちゃんと百八十度趣味違うし、俺」 「頼む、先に帰ってくれ、大雅」 これまでに見た覚えのない、弟に振り回されている清瀬の姿が物珍しくて見入っていた槇だが。 清瀬は家族にカミングアウトしてるんだ。 バイだということを家族に伝えていない槇は内心しんみり、した。

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