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マーメイドな上司/オネエ上司×ツンデレ部下
外資系ホテルの最上階にあるレストランバーで。
その男は夜景が一望できる窓際のカウンターに着いていた瀬尾瑞帆 を呼んだ。
「瑞帆」
それはとても親しげに。
誕生日月のカクテルをゆっくり愉しんでいた瑞帆が振り返れば、インテリジェンス漂う眼鏡から革靴まで海外ブランドに身を固めて隙がなさそうな男は、やはり洗練された笑顔を浮かべた。
「やっぱり。久し振り」
「ああ……どうも、ご無沙汰」
「相変わらずこの店好きなんだ、瑞帆」
ストライプスーツに落ち着いたダークブラウンの髪、長い足を組んで焦げ茶のリーガルを虚空に翳していた瑞帆も卒がない微笑を浮かべる。
彼の隣に座ってノンアルコールカクテルを口にしていた佐伯新 は一切そちらに視線を向けようとしなかった。
代わりに真正面の夜景を、いや、磨かれたガラスに写り込む瑞帆の横顔を薄目がちに眺めていた。
ああ、嫌だ、こんな自分。
こんなの俺じゃない。
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