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マーメイドな上司-2

「今日は帰ります」 「え?」 「気分じゃないので」 「贅沢な夜景を二人占めなダブルに一人で泊まれって? 薄情なコバンザメちゃんね」 男が去り、上司である瑞帆に今夜の同衾を断れば薄情だと言われ、新は冷めた眼差しで光り瞬く夜景を見据えた。 「貴方のコバンザメになった覚えなどありません」 「性質云々はどうでもいいの。ただ単にあの魚が好きなの。大きなサメにくっついて泳ぎ回ってカワイイじゃない? 見た目だけなら健気じゃない?」 瑞帆はクスクス笑った。 「コバンザメちゃん、妬いてるの?」 「妬いてもいませんし、おこぼれに縋るようなコバンザメではありません」 有名大学を出て早くに内定をもらっていた一流企業に就職し、これまでの人生において挫折の味を知らなかったプライドの高い新は、自分をコバンザメ呼ばわりするこの上司が当初は嫌いだった。 この言葉遣いだって。 社内研修を終えて配属先が決まり、最も敬遠していた部署行き、すでに新人の間でも名の知れていた瑞帆が上司となって最初は完全に色物扱い、もっと実力のある別の上司につきたかったと日々頭を悩ませていたものだった。 「こんな素敵な週末の夜に一人ぼっちになんかされたら淋しくて干乾びて死んじゃうわ」 しかしながら。 「上司命令には従いなさい。アタシのセクハラ受けられるなんて光栄なコトよ?」 優秀なんて陳腐な言葉では足りない、天賦の才溢れる瑞帆にいつの間にやら思考も感情も絡め取られていった。 「上層部に訴えますよ」 「訴えてごらんなさい、みんな羨ましがるから」 「瀬尾課長の世迷い言にはうんざりです」 「瀬尾課長はやめなさいって言ってるでしょう、ぐっと老けたオジサン気分になってモチベ下がっちゃう」 三十四歳の瑞帆の言葉に新は冷めた眼差しのままそっぽを向いた……。

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