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二名様カウンターです-3
「相澤先輩」
相澤は安西のお泊まりを受け入れた。
さっと一風呂浴びて歯磨きして就寝していた彼の元へ安西はやってきた。
間取りは1DK、零時過ぎに寝室のドアをそっと開いて、ソファから部屋の主の寝床へ。
「もう寝ましたか」
安西が来たらどうしよう。
あのドア開けて、こっち来たら、どうしよう。
それまで寝るに寝られず布団と毛布を掻き抱き、相澤は無視できない胸のざわめきに薄闇の中で何度も瞬きしていた。
安西の真夜中の来訪に胸のざわめきが爆音へと変わった。
心臓の鼓動音がやたら耳元近くでエフェクトがかかって聞こえてくるような。
「隣、行ってもいいですか」
返事をしようとし、口の中が一気に乾ききって声がうまく出せずに、横向きになったままだんまりしていたら。
ギシリ、ベッドが重たく軋んで背後に迫った体温。
乾いた空気を伝って相澤の背中に届いた安西の熱。
やがてじわじわと埋められていった隙間。
横向きのまま呼吸の仕方を忘れそうになっていた相澤は安西に背中から抱きしめられた。
「あったかいです」
やっぱり安西はホモだった。
ガチなやつだった。
俺のこと狙ってたんだ。
どうしよう。
嫌じゃない。
久し振りの人肌が背中に馴染む。
というより。
俺が安西に馴染んでるみたいだ。
真夜中の急接近なる抱擁、それまで不慣れな緊張でカチンコチンだった相澤は安西の気持ちがはっきり明らかになったことで、むしろ落ち着いた。
あーでもドキドキしてる、なんだこれ、これが俗に言う胸キュンってやつか、胸キュンってもう死語か。
「あ、埃です」
いつもの台詞と共に髪に触れられて相澤は吹き出した。
「俺、風呂入ったって。埃なんかつくわけない」
もぞりと頭だけ動かして背中に抱きついている安西と視線を合わせた。
眼鏡をかけて、ネクタイは外していた安西、上目遣いにどこか探るような視線を寄越してきたかと思えば。
「あ、」
首を捻って肩越しに苦笑していた相澤のうっすら開いていた唇に唇で触れた。
「ずっと好きでした」
猫背を修正すれば相澤の身長を追い越す安西は先輩を仰向けにゴロンした。
ベッドの上で上下スウェットで隙ありまくりな三十路の姿に心底見惚れた。
初めての体勢、告白されてキスまでされて、気恥ずかしくて仏頂面になった相澤に益々見惚れた。
「相澤先輩」
俺はこいつのことが好きなんだろうか。
久し振りの人肌に安心して甘えているだけなんじゃ。
いや、待てよ、こいつ男だぞ。
しかも、これまでと立場逆だぞ。
それで安心して甘えられるもんか?
他の誰でもない安西だから、だろ?
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